第三章　その一

家は人の心の最後の避難所であり、外でどんなことがあっても、家に帰れば心の慰めと庇護を得られるものだ。

しかし今、

彼女が家に入ってきた！

李追遠は崔桂英を起こすことができず、奥の部屋へと走った。そこの布団の上には兄弟姉妹たちが眠っていた。

「潘兄、起きて！」

「雷兄、早く起きて！」

「英姉、起きてよ！」

李追遠は次々と兄弟姉妹の間を走り回り、一人一人を揺さぶって呼びかけたが、台所の崔桂英と同じように、誰も目を覚まさなかった。

「ポタ…ポタ…ポタ…」

李追遠は頭を上げ、奥の部屋と台所の間のドアを見た。黄鶯ちゃんの姿はそこにはなかった。

「はぁ…」

心で安堵のため息をついたが、次の瞬間、足元に水たまりができているのに気づいた。水がどんどん増えていき、凸凹した床に沿って流れ出していった。

「ポタ…ポタ…ポタ…」

水滴が彼の体に絶え間なく落ち、服を濡らし、粘つく冷たさと滑らかさをもたらした。

視界の両側に、一対の手が現れた。

ついに、

冷たい両手が、彼の首を掴んだ。

李追遠の体が震え、強い窒息感が襲ってきた。

しかしすぐに、窒息感は徐々に引いていった。その手は首の位置にあまり長く留まらず、ゆっくりと下がり始めたからだ。

上方から影の塊が現れ、李追遠は苦しそうに頭を上げた。

上の人物もその時ゆっくりと頭を下げ、濡れた長い髪が次々と垂れ落ち、少年の顔に貼りつき、まるで黒い大きな口のように、少年の頭を少しずつ覆い、

ついには…

飲み込んだ。

…

「漢侯、ゆっくり行ってくれ。ゆっくり、お尻が痛いんだ。痛っ…痛いよ！」

李三江は片手で李維漢の腰を抱え、もう片方の手で自分の尻を押さえ、できるだけ突き出すようにした。

「おじさん、動かないで。動くと落ちますよ！」

「ふん、こんなに速く走られたら、動かずにいられるか！」

人の葬式の席で李三江を迎えた後、李維漢は一刻も早く家に帰ろうと自転車を走らせた。

田んぼの間の小道は狭く穴だらけで、乗っている人には確かに辛かった。それに李三江も年だし、こんな無理は体に良くない。

李維漢は前方の自宅までの距離が近く、近道として使っている小道がますます通りにくくなってきたのを見て、仕方なく少しスピードを落とした。

「あぁ…」李三江はようやく安堵のため息をつき、ポケットのタバコの箱を触りながら言った。「漢侯、ちょっと止まって一服しようや。」

「もうすぐ家ですよ、おじさん。家に着いてからにしましょう。」

「はぁ、何をそんなに慌てているんだ。盲人の劉に見てもらったんだろう？きっと、遠侯ちゃんは今頃家で元気に走り回っているはずだ。」

「盲人の劉は本当に能力がありますか？」

李維漢は劉金霞の能力をあまり信用していなかった。母娘が最も苦しんでいた時期を見ていた彼は、本当に陰陽を通じる力があるなら、あんな惨めな目に遭うわけがなかったと思っていた。

それに比べれば、李三江の方を信用していた。結局のところ、彼は死倒を引き上げる専門家だし、記憶の中では常に裕福な暮らしをしていた。

「そうだなぁ。あの盲人の劉は若い頃は詐欺師だったが、後になって自分なりに何かを会得したんだ。昔からある言葉だが、麻縄は細い所から切れるって言うだろう。彼女はどこでも先に自分が切れて、切れすぎて、経験を積んだってわけだ。」

「どういう意味ですか、おじさん。分かりませんよ。」

「分からなければいいんだ。遠侯ちゃんの場合、最悪でも祟られただけだ。こういうことは、盲人の劉なら本当に対処できる。お前らの昔の仲だったことだし。」

「子供のことが心配です。できれば俺が祟られた方がよかったです。」

「漢侯よ、本当に偏愛が激しいな。昔は末娘を可愛がり、今は外孫を可愛がる。まあ、それも当然だ。あの娘も頑張り屋だったしな。この二八型自転車も、娘が昔買ってくれたものだろう？

「でもな、祟られるってのは、そんなに苦しいもんじゃないんだ。むしろ楽しいくらいかもしれん。首吊り死体みたいなもんだ。縄の輪に首を入れる前、その輪を通して見えるものは、みんな魅惑的なものばかりだ。」

「おじさん、それじゃまるで良いことみたいじゃないですか？」

「良いことなんて言えないさ。子供が墓場症候群にかかっただけだと思えばいい。どの村でも毎年何人かの腕白な不運な子供がいるもんだ。小さな病気みたいなもんさ。」

「そういえば、おじさん、その死倒はどう処理するつもりですか？」

「処理だと？」李三江は突然感情的になり、厳しい口調で言った。「俺が生活が快適すぎて、わざわざ水の中を歩ける死倒を処理しに行くとでも思ってるのか？」

李維漢はそれを聞いて胸が締め付けられ、再びペダルを速く漕ぎ始めた。

「おい、おい、おい！ゆっくり、ゆっくり！漢侯、また何を焦っているんだ。その死倒がどんなに強くても、お前たちは逃げ出したんだから、大したことないさ。まさかお前の家まで追いかけてくるとでも？」

「着きました！」

二八型自転車が土手に到着すると、李維漢はすぐに降りて自転車を支えた。

李三江は後ろの座席から降り、絶えず尻を揉んでいた。

李維漢：「桂英、桂英！」

「はいはい、声を小さくして、子供たちが寝ているから。」崔桂英が出てきて、まず李三江に近づいた。「おじさん、いらっしゃいましたね。」

「ああ、来たよ。」李三江は無駄話をせず、中へ向かって袖を振った。「さあ、まず子供を見よう。」

板の戸のところまで来ると、李三江はしゃがんで李追遠の様子を確認した。

「彼を起こしましょうか？」崔桂英が尋ねた。

「いや、子供は大丈夫だ。もう祟りはない。盲人の劉は来たのか？」

「来ました。」崔桂英は午後の出来事を一通り話した。

李三江は話を聞き終わってう頷いて言った。「桂英がかつて優しく寛大で、漢侯に彼女たち母娘を助けさせたからこそ、今日があるんだ。善行が子孫に報われたってわけだ。」