蘇長御は少し憂鬱だった。
目の前の青衣の女は病気なのだろうか?
用事があるなら言えばいいのに、なぜ自分の体に擦り寄ってくるのか。
この服が高価だということを知らないのか?
ずっと擦り寄って、服を傷つけたら、賠償できるのか?
蘇長御の気分は良くなかった。
青衣の女は黙り込んだ。
彼女には分かっていた。蘇長御が自分に嫌悪感を抱いていることが。
空海が近くにいなければ、今頃は既に態度を豹変させていただろう。
「上仙様、ずっとここにいるのはよくないでしょう?私たちは先に離れて、下山の道を探しませんか?」
青衣の女は強引に笑顔を作って言った。
「行かない」
蘇長御の表情は冷たかった。
彼は少し鈍いところがあるが、愚かではない。ここにいれば少なくとも空海がいるし、何か危険が起きても空海が助けてくれるだろう。
しかしここを離れれば、どんな危険が待ち受けているか分からない。
目の前の女については、蘇長御は特に問題があるとは思っていなかった。
結局、蘇長御は自分の魅力に自信があり、青衣の女の行動はすべて自分の体を手に入れたいがためだと考えていた。こういうことは初めてではないので、蘇長御は特に違和感を感じていなかった。
一方、別の場所では。
濃霧の中。
葉平は足を組んで静かに座り、少しも慌てる様子もなく、むしろ「超度」のことについて考えを巡らせていた。
「道門の超度の法と、佛門の超度の法と、どちらが優れているのだろうか」
「しかし、道門の超度の法も佛門の超度の法も、大師兄の超度の法が最強だ」
葉平は心の中でそう思った。
そのとき、周囲の白い霧が徐々に晴れ始め、視界が良くなってきた。
すぐに、一つの人影が目の前に現れた。
それは蘇長御で、同じく地面に座っていた。
「大師兄」
蘇長御を見た葉平は思わず喜び、すぐに呼びかけた。
遠くない場所で。
葉平の声を聞いた後、楊文は目を開いた。彼は鬼修で、変化の術に長けており、葉平をここから連れ出すために来たのだった。
楊文は自分の変化の術に非常に自信があり、死ぬ前は役者だったのではないかとさえ思っていた。
なぜなら、他人の口調や一挙手一投足を模倣することが得意だったからだ。
彼はさっきから蘇長御を観察していたので、蘇長御の言動をすべて完璧に真似することができた。唯一の欠点は、気質を模倣するのが難しいことだったが、周りは白い霧に包まれているので、気付かれることはないだろう。
さらに目的は葉平を騙して連れ出すことだけなので、細かい部分は気付かれる可能性は極めて低かった。
そう考えると、楊文は立ち上がった。
「師弟よ」
楊文は葉平を呼び、落ち着いた口調で、確かによく似た声を出した。
葉平はほとんど考えることなく、彼の方へ歩み寄った。
二人の距離はそれほど遠くなかった。
「大師兄、もう大丈夫なのですか?」
葉平は楊文の前に来て、好奇心に満ちた眼差しで尋ねた。
「陣法術は少し弱まったが、まだ完全には終わっていない。ここは安全ではない。師弟よ、私について来なさい」
楊文は真面目な表情で言った。
葉平をここから連れ出そうとしていた。
「今すぐ離れるのですか?空海法師はどうするのですか?」
葉平は少し不思議そうに尋ねた。
「空海法師は自分の身は守れる。私はここが穏やかではないと感じている。おそらく鬼王が復活しようとしているのだ。我々は急いで離れねばならない」
楊文は葉平に情報を漏らすかのように話した。
「鬼王が復活?鬼王は既に死んでいたのではないですか?」
葉平は驚いた様子で、青州の記録を読んだ時、鬼王は佛門の高僧によって降魔の印で討伐されたと記されていたのに、どうして復活できるのだろうかと思った。
「それは晉國が人々の目を欺くためだけのことだ。確かに鬼王は当時大きな傷を負ったが、本当には死んでおらず、ただ封印されただけだ」
「師弟よ、もう話は止めにしよう。私について来なさい」
楊文は時間を無駄にしたくなかった。陣法術は一刻しか持続せず、もし時間を無駄にして陣法術が効果を失えば、面倒なことになる。
なぜか、葉平は目の前の大師兄に何か違和感を覚えた。
しかし具体的に何が違うのか、葉平にも分からなかった。ただ直感的に、目の前の大師兄が普段の大師兄と少し違うように感じられた。
「師弟よ、何を躊躇っているのだ?まさか大師兄を信じていないのか?」
楊文は再び声を上げ、今度は少し不機嫌そうな表情を浮かべた。
「そういうわけではありません」
葉平は首を振った。ただ何とも言えない感覚があるだけで、その感覚はそれほど強くなかったので、すぐに立ち上がって楊文の方へ歩み寄った。
「大師兄、先ほど仰っていた超度の経文とは、どんな経文なのですか?」
葉平は楊文の前に来て、とても好奇心に満ちた表情で尋ねた。
この言葉を聞いて、楊文は一瞬固まった。
超度の経文?
どんな超度の経文?
鬼修の私に超度の経を教えろというのか?
それは遊女に女徳を教わるようなものではないか?
私を侮辱しているのか?
いや、これは私を試しているのか?
楊文は一瞬固まった。葉平は既に彼の前まで来ていたが、空海がまだ近くにいたため、手を出す勇気はなかった。
そして葉平のこの質問と、先ほどの奇妙な眼差しから、楊文は葉平が自分を試しているのではないかと疑わざるを得なかった。
そう考えると、楊文は思わず沈黙してしまった。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「ああ、超度の経文はそれほど重要な玄門道法ではない。宗門に戻ってから、兄弟子が教えてやろう」
楊文は平静を装って答えた。彼は超度の経文なんて何も知らなかったが、とりあえず時間稼ぎをすることにした。
「宗門に戻ってからですか?兄弟子、先に超度の経文を見せていただけませんか?私がゆっくり読ませていただきます」
葉平が口を開いた。
彼は超度の経文に非常に興味があった。結局のところ、鬼魂を超度して功德まで得られるのだから、タダで手に入るものを誰が好まないだろうか?
この言葉を聞いて、楊文はさらに緊張した。
なぜか彼は、葉平が自分を試しているような気がしてならなかった。
しかし問題は、自分は超度の経文なんて全く知らないということだ。
いや、違う!
確かに一つの超度の経文を知っているような気がする。
突然、楊文は一つの超度の経文を思い出した。
それは鬼王を封印するための超度の経文で、ある道門の強者が刻んだもので、その超度の経文で相手の怨力を消耗させようとしたものだった。
ただ残念なことに、鬼王の怨念があまりにも深かった。
そう思い出して、楊文は咳払いをしてから言った。
「それならば、兄弟子が口述で教えてやろう。弟子よ、よく聞くように」
楊文は以前封印の地に行ったことがあり、その超度の経文も見たことがあったが、はっきりとは覚えていなかった。
しかし鬼修として、楊文は超度の経文は知らなくても、鬼修の怨念がどこにあるかは知っていた。
いわゆる超度とは、一種の導きであり、鬼修の心の怨念を導き、執着を手放させ、殺生刀を置き、心の業障を消し去ることで、それが超度となるのだ。
だからこの超度の経は、前半は鬼王の封印のものを丸写しし、後半は適当に作り上げることにした。
へへ!
俺って本当に賢いやつだ。
「どうか兄弟子、ご教示ください」
葉平は少し興奮した様子だった。
「無量天尊、三世照蘊......」
楊文は口を開き、一字一句丁寧に唱え始めた。同時に葉平を遠くへと導いていった。
「万物に霊あり、生には喜びを帯び、死には悲しみを帯び、怨みと別れは、すべて執念となる」
「怨念は渦巻き、苦海と化し、迷いに迷い、岸に渡ることを望まず、執着に執着す」
「執念は刀となり、人を傷つけ己を傷つけ、摩訶摩訶、殺生刀を置けば、自ずと度化されん」
楊文は経文を唱えた。前半は写したものだが、後半は一種の悟りだった。
鬼修としての悟り、彼は鬼修として、怨念が深まり、苦しみに耐えかね、度化されることを望んでいたが、心の怨恨は度化できず、誰を怨み、何処に恨みがあるのかも分からなかった。
天地は苦海のようで、楊文は自分がその苦海の中の一枚の小舟のように感じた。もがきたいと思いながらも、もがこうとはしない。
手に取るのは容易く、手放すのは極めて難しい。
くそ、自分で言っていて泣きたくなってきた。
楊文は最後の一句を唱え終えると、なぜか少し感傷的になっていた。
傍らの葉平は、真剣にこの経文に耳を傾けていた。
なぜか、彼は何か感じるものがあった。
人の死は灯火の消えるが如し、万事休す。それでもなおこの世に執着して生きているとは、どれほどの怨念があるのだろうか?
生前どれほどの苦しみを受けたからこそ、これほど強大な怨念を凝らすことができたのか。
生きるも苦しみ、死するも苦しみ。
その時、葉平は足を止めた。
なぜ歩みを止めたのか?
楊文は一瞬戸惑った。葉平が何か気付いたのかと思った。
しかし、葉平は何の動きも見せず、ただ地面に座り込んで、この度化の経を悟ろうとしていた。
「弟子よ、これは?」
楊文は少し困惑した。
「兄弟子、何か悟るものがあったような気がします。少し考えたいのです」
葉平は自分の感じたことを話した。
彼は何かを悟りかけているような気がしていた。
この言葉を聞いて。
楊文はすっかり呆然とした。
ここで悟道するつもりか?
何を悟ろうというのだ?
私の言ったことは、前半は確かに本物の度化の経だが、後半は全部適当に作り上げたものだぞ。
これで悟れるというのか?
もしお前がこれで悟れるなら、この楊文は即座に輪廻転生して、復讐なんてやめてしまおう。
楊文は少し歯痛を感じた。
もう少しで離れられるというところで、こんなことをされては、誰が耐えられようか。
楊文は何を言えばいいのか分からなくなった。
彼には本当に分からなかった。葉平は本当に悟道しているのか、それとも演技なのか。
躊躇いながら一炷香の時間が過ぎた。
ついに、楊文は待ちきれなくなった。
「弟子よ......」
楊文がちょうど口を開き、葉平にとりあえず先に行くように言おうとした時。
その時、一陣の清風が吹いてきた。