深夜。
天空は墨のように黒かった。
蘇長御は軒先に立ち、一人静かに月明かりを見つめていた。
軒先は風が強く、上がってきたことを少し後悔したが、高人らしい風格を保つため、蘇長御は我慢することにした。
淡い月光が身に降り注ぎ、万物は静寂に包まれていた。
景色は美しく、人を陶酔させるほどだった。
軒先で、蘇長御は静かに何かを思索していた。
今日起きた出来事が、彼の脳裏から離れなかった。
あの万人の注目を集めた感覚は、今でもまだ消えていなかった。
爽快ではあったが、蘇長御にはわかっていた。これら全ては、所詮幻想に過ぎないということを。
結局のところ、自分はまだ無能者だった。
いつも小師弟に助けられるわけにもいかないだろう?
この時、蘇長御の脳裏に一つの疑問が浮かんだ。
なぜ、自分はこんなに容姿端麗なのに、資質は平凡なのか?
なぜ、葉平は容姿が普通なのに、資質はあんなに突出しているのか?
嫉妬で胸が苦しい。
蘇長御は耐え難い思いでいっぱいだった。
「もしかして、私は本当に剣術に向いていないのか?」
この瞬間、蘇長御の心は好奇心で一杯になった。
「いや!蘇長御、決して自暴自棄になってはいけない。お前は間違いなく剣道の天才だ。ただ修練している剣術が、お前に合っていないだけだ。聖人も言っている、自分に合うものこそが最良のものだと。」
「蘇長御、自分を信じるんだ。絶対に天下第一の剣仙という夢を諦めてはいけない。」
軒先で、蘇長御は真剣に自分に言い聞かせた。自分が無能なのではなく、学んでいる剣術が自分に合っていないだけだと。
しかし、自分を慰めるための言い訳を見つけたものの、蘇長御の心の中ではよくわかっていた。不適切な剣術などない、ただ不適切な剣修がいるだけだと。
そう考えると、蘇長御は妙に憂鬱になってきた。
しかし、その時。
青州古城の西北通りで、突然そよ風が吹き、通りの端にある露店の薄い本が一冊舞い上がった。
次の瞬間。
軒先で、蘇長御が寝るために戻ろうとした時、そよ風が一冊の本を運んできて、彼の目の前に落とした。
「???」
蘇長御は少し驚き、その青い表紙の本に目を向けた。
月明かりを借りて、三文字が蘇長御の目に入った。
【養剣術】
「これは何だ?」
蘇長御は興味を持ち、この剣訣秘籍を拾い上げた。秘籍は薄く、わずか数ページしかないようだった。
一ページ目を開くと、すぐに数行の文字が目に入った。
【絶世の剣仙になりたいか?】
【万人の注目を集めたいか?】
【次のページをめくれば、お前の望むものは全てそこにある。】
【だが、めくる前によく考えよ。この方法は確かにお前を絶世の剣仙にし、万人の注目を集めることができる。しかし、この道は最も孤独で、最も寂しい剣仙の道でもある。】
【準備はできているか?】
一瞬、蘇長御は呆然とした。
無意識のうちに、この秘籍は誰かが適当に作り上げたものだろうと思ったが、なぜか蘇長御は確かに心を動かされていた。
次の瞬間、蘇長御は二ページ目をめくり、すぐに新しい文字が現れた。
【よろしい、ここまで読んだ時点で、お前はすでに絶世の剣仙となる資格を得た。今、次のページをめくれば、天地間最強の剣術を会得することができる。】
文字は大きく、一ページ全体を占めていた。
蘇長御は自分の知性が地に叩きつけられているような気がした。これは明らかに修仙初心者を騙すための秘籍だ。
しかし、なぜか蘇長御は次のページをめくりたい衝動を抑えられなかった。
「どうせ周りに誰もいないし、見てみるか。」
蘇長御は歯を食いしばった。普段なら、こんな秘籍を見たら即座に火をつけて燃やしてしまうところだが、なぜか今日は少し神経質になっていた。
三ページ目をめくる。
新しい文字が現れた。
【養剣術は、世界最強の剣術なり。この術を学ぶ者は、天下の剣道強者と戦わねばならず、勝利するたびに相手の剣意を得て、最も普通の長剣に封じ込める。このように九千九百九十九の剣意を蓄えた時、絶世の仙剣を育て上げることができる。】
【その時、抜剣すれば、天地を裂き、仙人を斬り、神を殺すことも容易い。】
【注意事項その一、九千九百九十九の剣意を集め終わるまでは、決して抜剣してはならない。さもなくば全てが水の泡となる。】
【注意事項その二、自分より強い剣道の達人を倒した時のみ剣意を凝縮できる。また、相手は完全な剣勢を会得している者でなければならない。さもなくば剣意を凝縮することはできない】
【注意事項その三、剣意が満ちる前に抜剣した場合、全ては水の泡となるが、その威力は絶大である。他人を誤って傷つけないよう極力注意せよ】
ここまで読んで、蘇長御は黙り込んだ。
自分が侮辱されたように感じた。
くそっ、天下の剣道強者に勝てるなら、こんなくだらない剣術なんか必要ないじゃないか?
それに剣を抜かずにどうやって戦えというんだ?
拳で戦うのか?それとも口で戦うのか?
くそっ、最近の秘籍作者も悪質すぎるだろ?こんな荒唐無稽な秘籍まで書くなんて?
人を害し、自分も害する。
そう思いながら、蘇長御は冷笑を漏らし、秘籍を投げ捨てようとした。
しかし、少し考えて、蘇長御は次のページをめくってみることにした。どうせ暇を持て余していたのだから。
だが、めくらなければよかったものを、めくった途端、蘇長御は凍りついた。
【剣を抜かずに敵を倒す方法が気になりませんか?】
【覚えておいてください。真の剣道の達人は、剣に頼るのではなく、精神の剣に頼るのです。剣道の達人に出会ったとき、自分で戦いを想像し、模倣し、どんな方法でも相手を倒せば、相手の剣意を得ることができます。】
【だから、養剣術は実戦ではなく、より高次元の精神戦なのです。しかし、この方法は極めて難しく、絶世の剣道の天才だけが悟ることができます。そのような資質がない場合は、決して学んではいけません。】
最後のページの内容に、蘇長御は呆然とした。
精神戦闘法?
この方法は素晴らしい。
この戦法は良い、私にぴったりだ。
いや、これはまさに自分のために作られたようなものだ。
蘇長御は考えれば考えるほど、この剣術が自分に適していると感じた。
敵と対峙し、戦いを想像し模倣し、精神的に相手を打ち負かす。殺し合いもなく、時間も浪費せず、しかも必ず勝てる。
この方法は素晴らしい。
この方法は絶妙だ。
でも......本当に効果があるのだろうか?
突然、蘇長御はこの疑問を抱いた。
修練過程には全く異論はないが、効果があるかどうかは別問題だ。
しかし、しばらくして蘇長御は心の中でつぶやいた。
「効果があろうとなかろうと、試してみて損はない。効果がなくても、私はもともと無能なのだから。」
「もし効果があれば、それこそ大儲けじゃないか?」
「そうだそうだ、これからはこの剣術を修練しよう。この秘籍が突然目の前に現れたのは、きっと天意だ。天意であれば、この秘籍には少なくとも何らかの効果があるはずだ。」
「良い、とても良い、素晴らしい。どうやら私、蘇長御は飛躍の時を迎えそうだ。」
「うっしっし~~~~~」
蘇長御は非常に上機嫌で、自分に本当に適した剣術を見つけたと感じていた。
はっはっはっは!
そしてその時。
滿江樓の天字二号室で。
葉平は床に胡座をかいていた。
傍らの凝神香から、不思議な香りが漂ってきた。
十数日の旅で、葉平は修行する時間がなかった。今やっと休む時間ができ、葉平は躊躇することなく、急いで功德の力を消化し始めた。
大量の功德の力が葉平によって靈氣に変換された。
一つ一つの功德の力が、うねる靈氣となった。
そして葉平は最初に、燭龍仙穴について考えた。
彼はすでに五つの穴を開いており、今や十個を目指していた。
恐ろしい靈氣が体内に充満した。
かすかな音とともに、六つ目の穴が開通した。
続いて、七つ目、八つ目、九つ目、十個目も開通した。
後になればなるほど、必要な靈氣が多くなることは否めない。
功德の力の三分の一を消費して、やっと十個の穴を開通させることができた。
しかし、得られた見返りも非常に大きかった。
十個の燭龍仙穴が運転を始め、瞬時に恐ろしい靈氣が体内に流れ込んだ。葉平は一刻修行し、境界は突破しなかったものの、練気十層で安定した。
細かく計算すると、十個の燭龍仙穴の修練速度は、一日で一つの功德の力に相当する。
そして一旦燭龍仙穴が三十六個まで開通すれば、神通を悟ることができる。これこそが燭龍仙穴の最強の能力だ。
仙穴を十個開通させた葉平は、少しも止まることなく、すぐに肉身の鍛錬を始めた。
次の瞬間、葉平は太古神魔錬體術の運転を始めた。
三刻後、大量の功德の力を借りて、葉平は三回の淬體を完了した。
現在までで、合計五回の淬體を行った。
そして五回の淬體の結果、肉身はさらに強くなり、精鋼石よりも堅固になった。以前の葉平は極品飛剣でも刺せなかったが、今の葉平は霊器で斬りつけても、大きな傷を負うことはない。上品の霊器でない限り。
肉身が強くなっただけでなく、体力も大きく向上した。
モォー。
この瞬間、葉平の体内から淡い象の咆哮が聞こえた。これは体力が大成したことの現れで、肉身元象だ。さらに一歩進めば、龍象の気息を凝縮し、龍のような力と象のような体力を得ることができる。
さらに葉平の霊脈も強化され、法力はより豊かになり、霊脈はより太くなり、蓄えられる靈氣も増えた。
葉平は今、練気十層の修為を持っているが、築基修士でさえ葉平の前では一撃に耐えられない。
もし一撃に耐えられたとしても、死なないまでも重傷を負うだろう。
仙穴と肉身の修練が終わった。
次は境界だ。
葉平は残りの三分の一の功德の力を全て靈氣に変換し、境界突破を始めた。
そうして、夜明けまで続いた。
葉平は目を開いた。
彼の境界は練気一層に戻っていた。
一晩で、葉平は二回の重修を完了し、現在五回目の重修中だ。
この時点での葉平は、精氣神が円満で、体力は象のごとく、血気は龍のごとく、基礎は堅固だった。
以前は一撃で築基修士を殺せた。
今の葉平は、一撃で築基後期の修士を殺すことができる。
しかしすぐに、葉平は気配を隠し、再び無害な様子に戻り、儒仙様の気質を漂わせた。
しかし、この日。
青州古城でまた大事が起こった。
正確に言えば、青州古城に、すでに晉國で名を馳せている剣道の天才が訪れたのだ。