部屋の中で、燕十が自分の主人の身分を明かした後、彼の視線は葉平に向けられたままだった。
驚いたことに、葉平の目には少しの驚きの色も見られなかった。
これは異常なことだった。燕十は葉平が動揺するだろうと予想していたのだから。
しかし葉平の反応は、表情も目つきも極めて平静で、まるで予想していたかのようだった。
「この若者、心が強いな」
燕十は心の中でつぶやいたが、特に驚いた様子も見せず、葉平の返事を待った。
実際、葉平は大夏太子という言葉を聞いても、全く驚かなかった。
最初から極品古寶を贈り物として出してくるような者なら、燕十が自分の主人は大夏天子様だと言っても信じられた。
一つの極品古寶で、一品宗門が丸ごと買えるほどの価値があるのだから。
そのような大きな出費ができる者となれば、太子でなければならないだろう。
燕十を一瞥して、葉平は瞬時に相手が自分を訪ねてきた理由を理解した。
おそらく自分を引き込もうとしているのだろう。だから会った途端に極品古寶を贈ってきたのだ。
ただ葉平が気になったのは、相手が自分の何を評価しているのかということだった。
皇甫天龍との戦いのことだろうか?
葉平は確かに興味を持った。もしそれが理由なら、この大夏太子はあまりにも手際が良すぎるのではないか。
十國に天才が現れたと思えば、すぐさま引き込もうとする。このような太子は、きっと恐ろしいほどの手腕を持っているに違いない。
そしてその時、燕十の声が響いた。
「葉どうゆう、あなたはこれほど若くして、天賦の才能を持ち、さらには南國の天才と戦って名を上げたと聞いています。我が主人はあなたを非常に高く評価しております。葉どうゆうには、我が主人にお会いいただけないでしょうか?」
燕十は誇り高い性格ではあったが、大夏太子が葉平を必要としていること、より正確に言えば、葉平の無毒丹を必要としていることをよく理解していた。
南國の天才である皇甫天龍を打ち負かしたことについては、それほど重要ではなく、褒め言葉として使うだけのことだった。
南國の天才がどれほど強くても、それがどうした?
葉平がどれほど強くても、それがどうした?
大夏王朝のレベルになると、天才など不足していない。堂々たる大夏太子の周りに、天才が不足しているはずがない。強者が不足しているはずがない。
たとえ葉平の才能がどれほど優れていても、絶世の天才であったとしても、葉平はただの築基修士に過ぎない。
大夏太子の側には、渡劫境の強者がいるのだ。渡劫境というレベルになると。
もはや天才も何もない。彼らは手を上げ足を動かすだけで天地を破壊できる。だから葉平に目をつけたのは、葉平の実力でもなく、葉平の才能でもない。
ただ無毒丹のためだけだ。それだけのことだ。
しかしこの話は口に出せない。時には必要なものについて、かえって言及しない方がいい。さもなければ、葉平が才能を鼻にかけるようなことになれば、それこそ彼らが最も見たくないことになる。
燕十は数多くの天才を見てきた。また大夏太子のために多くの天才を引き込んできた。
だから燕十は天才のことをよく理解している。彼らは天才が強いことを恐れない。最も恐れているのは、天才に視野と器量が欠けていることだ。
無知であるがゆえに恐れを知らない。
しかし葉平については、燕十はやや安心していた。調査によると、葉平は晋国の太子李鈺と良好な関係を持ち、さらに晉國學院の学生でもあるため、大夏王朝がどれほどのものかをよく理解しているはずだった。
大夏太子がどれほど高貴な存在かを知っているはずだ。だから彼は自信に満ちていた。
しかし、その時、葉平の声が響いた。
「燕道友、太子の御厚意には感謝いたします。しかし私は気ままな放浪者でして、お茶を飲むことは喜んでお受けしますが、誰かに従うとか、誰かのために働くというのは、あまり好みません」
「もちろん、太子からの贈り物にも感謝しております。私からは太子にお返しできるようなものはありませんが、これは晉國の新茶です。これをお持ち帰りいただき、太子へのお返しとさせていただきます」
葉平は穏やかに微笑んだ。この紫玉珠は価値が計り知れず、しかも太子から贈られたものだ。葉平がそれを受け取らないわけにはいかない。しかし、太子の勢力に加わることや、太子のために働くことは、絶対にありえなかった。
葉平は常に一つの鉄則を信じていた。
働くことなど絶対にありえない。この人生で働くことなど絶対にありえない。
それに、太子という職業自体が非常にリスクの高い職業だ。古来より、前世でも、この世界でも、基本的に太子には良い結末がない。
だから最初に李鈺が太子だと知った時、葉平は正直、李鈺にこの地位を早く放棄するよう勧めることも考えた。
後になって、李鈺の父親が前後してわずか数人の皇子しか生まなかったこと、そしてほとんどの皇子が李鈺より何歳も年下だということを知って、特に言うことはなくなった。
さらに、李鈺のような場合はまだ良い。ただの晋国だけのことだ。本当に大物が後ろ盾にいれば、地位を奪われることもないだろう。
そして大夏王朝も反乱を許すはずがない。十國内の事情は、一見大夏王朝は関与しないように見えるが、重要な時には、大夏王朝は必ず出手して、正統を守るだろう。
だから李鈺の太子という立場はまだ安全だと言える。
しかし大夏王朝の太子、それこそ本当にハイリスクな職業だ。
兄弟姉妹が大勢いる中で、他の皇子たちが大夏帝位に目がくらまないはずがない。
晋国には大夏王朝が監督しているが、大夏王朝を監督する者は誰もいない。
はっきり言えば、他の四大王朝、さらには一部の聖地は、助けるどころか、むしろ足を引っ張り、他の皇子を支持し、これらの皇子たちが争い合い、殺し合うことを望んでいるだろう。
その時、皇位争いのために、必ず無数の利益が約束されることになる。たとえ何も約束しなくても、内部の争いによる消耗は、外部との争いよりも常に大きい。
だから大夏王朝の帝位争いは、必ず極めて極めて極めて恐ろしいものとなるだろう。
葉平はもともと株式投資が好きではなかった。特に皇帝株には手を出したくない。間違えれば一族皆殺しになり、当てても必ずしも良いことではない。
古人は言う、鳥が尽き、良弓は隠され、狡兎が死に、猟犬は煮られる。
おとなしく修仙に励めばいいものを。
どうして皇室の事に首を突っ込む必要がある?
「ふふ、葉道友はなんと面白い方なのでしょう」
燕十は軽く笑った。実は彼は少し困惑していた。葉平の言葉の真意が分からなかったのだ。
太子を断るというが、問題は贈り物は受け取るということだ。
同意したかと思えば、どうやら太子に会う気は全くないようだ。
普通の天才を引き込もうとする場合なら、燕十はすぐに立ち去っただろう。紫玉珠を一つ贈られたところで何になろう?
皇太子様は紫玉珠一つに困ることはない。
しかし問題は、皇太子様が注目しているのは、葉平の実力でも、葉平の才能でもない。
無毒丹なのだ。
無毒丹は重大な事項に関わるため、燕十はやはり明確な答えを得たかった。
彼は葉平を見つめて言った。
「葉道友、どのような懸念があるのかは存じませんが、皇太子様に従えば、栄華富貴というのは俗っぽい言い方かもしれませんが、葉道友が皇太子様に従えば、これからは大夏において、思いのままに振る舞えるのではないでしょうか?」
「もし葉道友が本当に皇太子様のお役に立てるなら、将来、王に封じられる可能性さえあります」
燕十は真剣な面持ちで言った。
ただし、この言葉は純粋に人を誘うための方便に過ぎなかった。
王への封じ立ては重大な事項であり、太子を皇位に押し上げる立役者でもない限り、どれほどの功績を立てようと、王に封じられることはありえない。
もちろん、不可能と言えないは別物だ。燕十は人心を掴むことに長けており、この世に欲のない修士などいないことを知っていた。天才が傲慢なのは、すべてを見下しているからではなく、単に条件が折り合っていないだけだ。
燕十の考えは決して間違っていなかったが、残念なことに、彼が出会ったのは葉平だった。
「燕道友のおっしゃる通りです。しかし葉某は先ほども申し上げた通り、ただの野に遊ぶ雲鶴のようなもの。いかなる勢力にも加わりたくありませんし、いかなる争いにも巻き込まれたくありません。お茶を飲むのは構いませんが、それ以外のことは、ご容赦願います」
葉平は声を上げ、さらに続けた。
どのような場合でも、いわゆる太子の勢力には加わらないし、積極的に関わることもない。
静かに修仙に励むのがいいではないか?
葉平がそう言うと、燕十は黙り込んだ。
しかし彼は激しく出ることもなく、怒りを見せることもなく、むしろ穏やかに笑って言った。
「葉道友は本当に並外れた方です。大夏太子の誘いにも動じないとは、その道心は確かに見事です。私、燕某も交友を結びたく思いますが、葉道友はいかがでしょうか」
燕十はこのように切り出した。これは彼の常套手段だった。実際、大夏太子という身分は、時として逆効果になることがある。天才は扱いが難しく、引き込もうとすればするほど、傲慢になるものだ。
かといって強引なやり方もできないし、このまま天才を見逃すわけにもいかない。
そのため燕十はいつも自分の身分で友好を結び、相手の警戒心を解くようにしていた。そしてさまざまな方法で、これらの天才の視野を広げ、この世界がいかに広大であるかを理解させる。
そうなれば、自分から口を出す必要もなく、これらの天才は自ら進んで太子の門下に入ろうとするのだ。
やはり、無知は無畏である。
それはまるで、ある村に住んでいて、最高の食事を取り、最高の飲み物を飲み、最高の住まいに住んでいても、一年で一両の銀子も使わないようなものだ。
そして一萬両の銀子を持っていれば、誰かが十萬両の銀子をくれると言って、やりたくないことをやらせようとしても、決してやろうとはしないだろう。
なぜなら銀両は必要ないからだ。一萬両も使い切れないのに、十萬両をもらっても意味がない。
しかし一度外に連れ出して、大都会を見せ、数十両や数百両もする珍味を食べさせる。
不染塵のような場所で、数千両で一番の花魁を指名させる。そうしてはじめて、自分の手持ちの銀両がそれほど多くないことを知るのだ。
だから十萬両の銀子はおろか、五萬両の銀子でも、やりたくなかったことをやろうと思うようになる。
天才も同じことだ。今は何の心配もなく、衣食に困ることもなく、資源も不足していない。なぜなら彼らの住む場所は、まさに小さな村のようなもので、彼らはまだその村から出たことがないのだ。
そして燕十の考えは、まさにこれらの人々を、その小さな村から連れ出すことだった。
彼らにこの世界を見せ、この世界を理解させる。そうすれば、大夏太子に従うことがどれほど素晴らしいことかを知るだろう。
この言葉を聞いて、葉平は笑みを浮かべて言った。
「聖人は言います、友が多ければ道も多し、と。葉某も確かに友を作るのが好きです。燕さん、これは晉國の新茶です。お会いのしるしとしてお贈りします」
「どうかお気遣いなく、また決して私に贈り物などなさらないでください。あなたは太子門下生で、一挙手一投足が太子を代表するものですが、私は断固としてあなたの贈り物は受け取りません」
葉平は二つ目の新茶の袋を取り出し、燕十に渡した。
言葉は非常に誠実そうだった。
しかし燕十は少し戸惑った。
なぜか、葉平に策略にはめられているような気がしたが、確かに自分は太子門下生であり、当然気前よく振る舞わねばならない。そこで淡い青色の手鎖を取り出して言った。
「葉道友、礼は往来するものです。新茶一袋とはいえ、形は軽くとも情は重し。私は皇太子様の門下生として、一挙手一投足が太子を代表します。太子は気前が良く、決して吝かではなく、また礼儀を非常に重んじます」
「そこでこの藍火手鎖を、お会いのしるしとさせていただきます。つまらないものですが」
燕十はこの藍火手鎖を葉平に差し出した。これも古寶の一つだが、極品の古寶ではないものの、価値は決して安くはない。
「燕さん、それは本当に恐縮です。お受けできません」
葉平は断固とした表情を浮かべながら、その藍火手鎖を見つめ続けていた。
「葉兄さん、お礼は互いのものです。受け取ってください」
燕十は相手が遠慮しているだけだと分かっていたので、さらに勧め続けた。正直なところ、少し心苦しくもあったが、葉平と親交を結べるのであれば、それも悪くはないと思った。
「いけません、いけません。皇太子様から寶物を頂いたのに、あなたからもまた寶物を頂くなんて、葉どのが欲深い人間に見えてしまいます。受け取れません、絶対に受け取れません」
葉平は依然として断固とした態度を崩さなかった。
「構いませんよ、葉兄さん。太子は太子、私は私です。これは個人的なお付き合いです」
燕十は引き続き言った。
葉平がまだ遠慮しようとしていると、燕十は仕方なく「葉兄さん、もしお受け取りにならないのでしたら、私はこれを捨ててしまいます。それでもあなたに差し上げたことにしますよ」と言った。
この言葉を聞いて、葉平は仕方なく寶物を受け取った。そして少し考えてから、新しいお茶をもう一袋取り出した。
相手が二つの寶物をくれたのに、自分が二袋のお茶を送るのは、少し得すぎではないだろうか?
もう一袋送れば、お互いに借りも貸しもない、それがいいだろう。
燕十は少し困惑した。このお茶が何を意味するのか分からなかったが、葉平が続けて三袋も送ってきた。これは彼には必要ないものだった。大夏王朝にはいくらでもあるのだから。
しかし葉平の面子を潰すわけにもいかず、受け取るしかなかった。
「葉道友、これは私の伝音符です。何かございましたら、直接私にご連絡ください。大夏王朝内であれば、この伝音符を通じて私に連絡が取れます」
「何か困ったことがありましたら、遠慮なく仰ってください。太子とは無関係の、純粋な個人的なお付き合いとして」
燕十はそう言うと、すぐに立ち去った。無駄な時間を取らなかった。
葉平が相手ともう少し話をしようと思った時には、燕十は既に部屋から姿を消していて、ただ一枚の伝音符だけが残されていた。
この時、部屋の中で葉平は深く考え込んだ。
この燕十は人付き合いが上手い。もう太子の話は持ち出さず、自然と好感を持たせる。
正直なところ、以前は燕十のことを太子の取り巻きの一人で、傲慢な態度を取る人間だと思っていた。しかし今となっては、太子に仕える者たちは決して愚か者ではないことが分かった。傲慢で人を見下し、すぐに自分の立場を振りかざすような取り巻きは、成り上がり者が育てる者たちにしか見られない。
皇室の品格は、やはり十分に備わっているものだ。
葉平がそのように考えていた時、突然、大きな声が響き渡った。
「私を通せ。私は晋国の太子だ、晋国の皇太子だぞ。葉平は私の師匠なのに、お前たちは私を止めるというのか?」
大きな声が響き渡った。
葉平は思わず驚いた。
すぐに、葉平の表情は奇妙なものとなり、先ほどの言葉を撤回せざるを得なかった。
人と人とは本当に比べものにならない。
大夏太子の部下を見てみろ、そして李鈺を見てみろ。相手の部下一人にも及ばない。
一生小国の君主で終わるのも当然だ。
ギィッ。
扉を開けると、葉平は中庭の外で止められている李鈺を一目で見つけた。
「彼を通せ」
葉平が言うと、中庭の外で見張っていた弟子たちは直ちに道を開けた。
彼らの目には、葉平の地位は李鈺よりもずっと高かった。
「師匠、師匠」
通してもらうと、李鈺は急いで駆け寄り、興奮した面持ちで葉平の前に来ると、すぐに口を開いた。
「師匠、十國大會に参加されないのですか?」
李鈺は特にこの件で晉國學院まで来たのだった。
「お前はそのためだけに来たのか?」
葉平は部屋に入りながら、落ち着いた様子で言った。
「もちろんそのためです。師匠、内部情報によると、大夏學宮は間違いなく五年以内に開かれるはずです。もし師匠が十國大會に参加されなければ、十國學府に入ることができません」
「十國學府に入れなければ、大夏學宮にも入れないのです。この大夏學宮は晉國學院のように簡単には入れないのですよ」
李鈺は非常に焦りながら言った。
葉平は表情を変えることなく、机の横から新しいお茶を一袋取り出し、李鈺に渡そうとしたが、両手が空っぽの李鈺を見て、また新しいお茶を戻した。
そして葉平は落ち着いた口調で言った。
「私には自分の考えがある。このような事は今後問い質すな」
葉平は十國大會についてこれ以上答えたくなかった。
行かないと言ったら行かない。
何が起ころうと、行かない。
しかし最後に、葉平は机の上の藍火手鎖と紫玉珠を指さして言った。「そうだ、李鈺、この二つの品はどれくらいの価値があると思う?私のために売ってくれないか?霊石が必要なんだ」
この言葉を聞いて、李鈺は最初は答えたくなく、まだ葉平を説得しようと思っていたが、この二つの寶物を見た途端、目が釘付けになった。
「極品古寶の紫玉元神珠と、藍靈火石で作られた手鎖ですか?これらは一級品の寶物ですよ。師匠、霊石が足りないのですか?私が買いましょう」
李鈺の目は即座に輝いた。
彼はこの二つの品が非常に価値のあるものだと知っていた。
「いくらだ?」
葉平は興味深そうに尋ねた。
「師匠、私はまだ成人していないので、安くしていただけませんか?五千の上品靈石でどうでしょう?足りなければ、もう少し借りてきます」
李鈺はそう尋ねた。
「出て行け!真面目にしろ」
葉平は一目で李鈺が適当な値段を言っているのを見抜いた。
「師匠、真面目には無理です。これは価値が計り知れないものです。私には手が出ません。でも誰なら買えるか知っています。ただし、少し時間がかかります。控えめに見積もっても、この二つで少なくとも百萬靈石の価値はあります。師匠はどれくらいの霊石が必要なのですか?私が先に立て替えましょうか?」
李鈺は数字を口にしながら、非常に興味深そうに尋ねた。
百萬の上品靈石?
葉平は少し驚き、同時に李鈺の申し出を首を振って断った。
李鈺は太子として、お金があると言えばあるし、ないと言えばない。太子の立場で、どこに金を使わなければならないことがないだろうか?
「どれくらい時間がかかる?」
葉平は尋ねた。
「早ければ一ヶ月、遅ければ三ヶ月です」
李鈺はそう答えた。
その瞬間、葉平は眉をひそめた。
確かに少し遅すぎる。
しかも、これは太子からの贈り物だ。すぐに売ってしまうのはあまり良くない。相手が丁寧に贈り物をしてくれたのに、すぐに転売するというのは、どう考えても自分に非がある。
そう考えると、葉平は眉をひそめた。
今の彼は何も考えたくない、ただ霊石が欲しいだけだった。
傍らの李鈺は葉平の心中を察したようで、我慢できずに興味深そうに言った。
「師匠、霊石が足りないのですか?私は霊石を素早く稼ぐ方法を知っていますよ」
李鈺が口を開いた。
この言葉を聞いて、葉平は即座に元気を取り戻した。
「どんな方法だ?どれくらい早い?」
葉平は興味を示した。
「かなり早いですよ。十國大會の優勝賞金は百萬上品靈石です。運が良ければ、理論上ですよ、あくまで理論上の話ですが、師匠、七日以内に大会は終わります」
李鈺は言った。
その瞬間、葉平は呆然とした。
十國大會にも霊石の賞金があるのか?
そしてこの時。
十國學府。
本殿の中。
十國府主は恭しく一人の中年の男性の前に立ち、非常に緊張した様子を見せていた。
その中年の男性は落ち着いた口調で言った。
「陳府主、この地図には魏國魔神教の拠点が記されている。監天院院長の勅命を伝える。今回の十國大會では追加の試験を設ける。弟子たちに直接魔神教の掃討に向かわせよ。分かったか?」
声が響いた。
十國府主の表情が変わった。追加の最終試験?
しかも直接魔神教の掃討とは?これは前代未聞だ。
しかし彼には不満を言う余地も、不満を持つ資格もなかった。ただ非常に真剣に答えた。
「承知いたしました。上位様にお伝えください。この件、私は全力を尽くして遂行いたします」
この言葉を言い終えると、中年の男性は頷いたが、最後にもう一言付け加えた。
「この件は、上位の勅命だ。間違いのないようにな」
言い終わるや否や、中年の男性は姿を消した。
十國學府の府主もようやく安堵の息をついた。
そして続いて、好奇心と驚きの入り混じった感情を抱いた。
好奇心を抱いたのは、監天院が今まで十國學府の事に関与したことがなかったからであり、驚いたのは、これが監天院院長の勅命だったからだ。
大夏監天院の院長は、大夏帝王陛下に次ぐ存在であり、太子でさえも三分の譲りを示さねばならない。
まさに一人の下、万人の上の存在である。
彼には理解できなかったが、深く考えることもしなかった。