「奴らがいるぞ、追え!」
「十姫様は前方だ、早く追え!」
「殺せ!」
山脈の中に、無数の人影が現れ、密集して数千もの影が山脈の中を駆け抜けていた。
葉平は冷静な表情で、夏青墨の手を引いて全力で走り続けた。
「恩人様、なぜ御剣飛行を使わないのですか?」
引きずられるように走らされている夏青墨は少し辛そうだった。姫という身分で、こんな激しい走りに耐えられるはずもない。
さらに夏青墨が不思議に思ったのは、なぜ葉平はただ走るだけなのか。御剣飛行の方が良いのではないか?
彼女は吐き気を感じていた。
「私は御剣飛行ができないんです。」
葉平も少し気まずそうだった。御剣飛行ができないのは、主に大師兄が教えてくれなかったからだ。
その後、晉國學院に行っても、葉平は御剣術を学ばなかった。晉國學院に御剣術がないわけでもなく、葉平が怠けていたわけでもない。主に大師兄が教えてくれたものではないから、葉平は学ぶ気が起きなかっただけだ。
「????」
夏青墨は少し呆然とした。
築基初期の境地で、気血炉を操り、瞬時に陣法を展開できる者が、御剣術ができないだって?
それは、まるで学識豊かな絶世の才子が、字が書けないと言うようなものだ。
しかし夏青墨はすぐに我に返り、葉平を見つめて言った。
「恩人様、私が御剣術をお教えしましょうか?」
夏青墨は口を開いた。彼女はこの揺れる感覚に本当に耐えられなかった。
「青墨姫、他意はないのですが、私の大師兄は絶世剣仙です。御剣の術は大師兄から伝授してもらいたいと思っています。ご好意は感謝いたします。」
葉平は走り続けながら、相手の好意を断った。
「いいえ、恩人様、このまま走り続けると、私は...耐えられません。」
夏青墨は苦笑いを浮かべた。主に彼女が本当に耐えられないからだ。葉平の速度が速すぎる。御剣飛行なら剛氣で身を守れるが、葉平は純粋な疾走だ。肉身が強靭なら問題ないのだが。
問題は彼女が本当に耐えられないことだった。
「でも...」
一瞬、葉平は気まずそうな表情を見せた。夏青墨が本当に苦しそうなのは見て取れた。呼吸も整わず、美しい顔は真っ赤になっていた。
しかし速度を落とせば、必ず追いつかれてしまう。
速度を落とさなければ、夏青墨が本当に危険な状態になりそうだ。
はぁ、女は面倒だ。
葉平は少し憂鬱になった。
「恩人様、ご安心ください。私が教える御剣術は、あなたの大師兄のものには及ばないかもしれませんが、決して劣ってはいません。大夏王朝の経蔵閣で第一位の御剣の術なのです。」
「後にもし必要なくなれば、改めて師兄様から学べばよいのです。」
「非常時には非常手段、大師兄様もきっとお咎めにはならないでしょう。」
夏青墨は懸命に葉平を説得した。
さすがに、ここまで言われては。
葉平も心が揺らいだ。
「わかりました、それならそうするしかありませんね、はぁ。」
葉平は口を開いた。その言葉には諦めが滲んでいた。
この時、夏青墨は少し辛い気持ちになった。
彼女は大夏王朝で「動く経蔵閣」と呼ばれていた。大夏王朝どころか、他の四大王朝の秘傳や心法、珍しい話や不思議な出来事まで、彼女は多少なりとも知っていた。
誰もが欲しがる秘籍や心法を少し話すだけでも、大夏王朝中の誰もが欲しがるはずなのに。
今日、自ら秘法を伝授しようとしたのに、葉平にこれほど嫌がられるとは思わなかった。
この時、夏青墨は葉平の言う大師兄が誰なのか、とても知りたくなった。
しかし今は、早く秘法を伝授しなければ。
「恩人様、この秘法は大自在御劍術と申します。大夏王朝で非常に有名な御剣の術です。私が口訣をお伝えしますので、よく覚えてください。」
夏青墨は声を上げ、そして口を開いた。
「我が心は水の如く、我が意は風の如く、我が身は逍遥にして、我が神は自在なり...」
夏青墨は口を開き、「大自在御劍術」を全て葉平に伝授した。
口訣は長くなく、葉平は瞬時にその口訣を記憶した。
そして理解し始めた。
「恩人様、もしこの秘法が難しければ、別のものをお教えしましょう。」
口訣を伝え終わった後、夏青墨は続けて言った。
実は彼女は少し後悔していた。
おそらく葉平が軽んじているように見えたため、大夏王朝の経蔵閣で最高の御剣術を葉平に伝授してしまった。
御剣術は最も基本的な剣術だが、この大自在御劍術は、そう簡単に習得できるものではない。
剣道の天才でさえ、数ヶ月の時間をかけてようやく理解できるものだ。
葉平に伝授して、本当に習得できるのかどうか分からない。
もし習得できなければ、それは困ったことになる。
しかし夏青墨の言葉が終わるや否や、一振りの飛び剣が葉平の手に現れた。
これは蘇長御が彼に贈った飛び剣だ。
葉平はずっと丹田に収めていたが、今御剣術を学んだので、試してみようと思った。
「我が心は水の如く、我が意は風の如く、我が身は逍遥にして、我が神は自在なり。」
葉平は目を閉じ、じっくりと感得した。
そしてこの時。
一陣の清風が吹いてきた。
一瞬のうちに、葉平の手にある飛び剣が、まるで霊智を持つかのように数倍に膨れ上がり、彼の足元に現れた。
シュッ。
次の瞬間、葉平の速度が十倍に跳ね上がり、彼はまるで清風のように、千山万水を越えていった。
「意は風のごとし!」
一瞬にして、夏青墨は何が起きたのかを理解した。
葉平は十呼吸の間に、大自在御劍術を会得しただけでなく、その短い時間で第二重の意味まで悟ったのだ。
我が心は水のごとし、これが第一重境界、剣術は水のように、御剣は柔和なり。
我が意は風のごとし、これが第二重境界、心意は風のように、御剣は極速なり。
我が身は逍遥なり、これが第三重境界、世間を逍遥し、御剣は身に随う。
我が身は自在なり、これが第四重境界、天地は自在にして、御剣は神に随う。
通常、剣道の天才でさえ、数ヶ月の時間をかけてようやく第一重境界に到達できるものだ。
しかし葉平はわずか十呼吸の時間で、直接第二重境界に到達した。
御剣は風のごとく、思いのままに。
この才能......まさに妖怪じみている。
夏青墨は突然、葉平の才能は自分の兄たちにも劣らないのではないかと感じた。
彼女には想像もつかなかった、小さな青州にこのような天才がいるとは。
葉平は風のごとく、天地の間を自在に遊んでいた。
天空殿の上で、葉平は御剣の快感を味わいながら目を開けた。恐れを感じながらも、この制御力は葉平に比類なき爽快感をもたらした。
まばたきする間に、葉平は数千メートル先に消えた。
また一瞬で、葉平は元の場所に戻ってきた。
この速度の増加は、まさに恐ろしいものだった。
以前は肉身に頼って、葉平の限界は一日三千里だった。
しかし今やこの大自在御劍術を習得した後、葉平は一日三万里も容易く、それ以上も可能だと感じた。
「こいつの速度がどうしてこんなに急に速くなった。」
「早く追え、無駄話は止めろ。」
「今回の任務が失敗すれば、我々全員が災難に遭う、早く追え。」
「爆血丹を飲んで追うぞ、逃がすわけにはいかない。」
この時、山林の間から次々と人影が空へと飛び出した。彼らは以前は葉平に見つからないよう山林に隠れていたが、今や葉平が御剣飛行を始めたため、彼らも実力を隠す必要がなくなった。
法器を操り、直接葉平を追跡し始めた。
「恩人様、早くお逃げください。」
夏青墨の声が響き、これほど多くの追手を見て、彼女は即座に葉平に逃げるよう促した。
葉平も躊躇することなく、ただ一瞥しただけで風のように消えた。
その速度は人々を驚愕させるほどだった。
天空殿の上で、びっしりと並んだ魔神教の弟子たちは皆呆然とした。
葉平の速度があまりに速く、肉眼では捕らえられないほどだった。
追えるものなら追いたいが、問題はこの速度では誰も追いつけないということだ。
しかし人々が我に返る間もなく。
突如として、葉平の姿が元の場所に戻ってきた。
今度は魔神教の弟子たちが再び呆然とした。
彼らには何が起きたのか分からず、なぜ葉平が戻ってきたのか理解できなかった。
「恩人様、どうされたのですか?」
彼らだけでなく、夏青墨も少し不思議に思った。
もう逃げたはずなのに、なぜまた戻ってきたのか?
この考えは理解し難かった。
しかし飛び剣の上で、葉平は驚いていた。
彼は最初確かに逃げたが、去り際にこの集団を一目見て、これらが全て魔神教の弟子だと気付いたのだ。
魔神教の弟子だ。
もし他の修士なら、本当に逃げただろう。相手の修為がどうであれ、蟻の数が多ければ象を殺せるという道理を知っているからだ。
しかし魔神教の弟子は違う。
これは自分に功徳を送ってくれているようなものではないか?
葉平の目には、魔神教の弟子は功徳と等しい、とても単純な考えだ。
だから気付いた後、葉平は引き返してきたのだ。
「青墨姫、あなたを追っている者たちは、皆魔神教の弟子なのですか?」
葉平は声を上げ、このように尋ねた。
「はい、晉國の境内では、大夏王朝に対抗できるのは魔神教だけですから。」
夏青墨は少し理解できなかった。彼女には葉平が何を言いたいのか分からなかった。
「青墨姫、今後はこのようなことは早めに教えてください。」
確実な答えを得て、葉平はすぐに安心し、目に期待の色を浮かべながら、この魔神教の弟子たちを見つめた。
一方、弟子たちも少し呆然としていた。
彼らも葉平が何を考えているのか理解できなかった。
魔神教の弟子がどうしたというのか?
魔神教の弟子は強くないとでも?兄貴、一体何を考えているんだ?
もう少しまともになってくれないか?
「無駄話はやめろ、殺せ。」
「姫を生け捕りにせよ」
「殺せ!」
しかし、葉平がどんな策を弄しようとも、彼らはもはや気にも留めなかった。一斉に葉平に向かって襲いかかり、様々な法寶や飛び剣が葉平めがけて飛んでいった。
要するに、彼らの任務は姫を生け捕りにすることであり、それ以外のことは一切関係なかった。
数千の人影が葉平に向かって押し寄せ、天空殿の上で蟻のように円形を作り、葉平を包囲した。
「恩人様、早く逃げてください!あなたは強いかもしれませんが、双拳四手に敵わず、無謀な行動は慎んでください」
瞬時に、夏青墨は慌てて葉平に逃げるよう促した。彼女は葉平の実力が強いことを知っていたが、さすがにこれは無理だと思った。
これほどの大勢が一斉に襲いかかれば、金丹修士でさえここで命を落とすだろう。
しかも、この魔神教弟子の中には築基修士が多数おり、蟻の群れが象を殺すというのは冗談ではなかった。
しかし、天空殿の上で、葉平は夏青墨の肩を軽く叩いた。彼は何も言わなかったが、その目に宿る自信に満ちた表情に、夏青墨は言葉を失った。
シュッ。
一瞬のうちに、全ての魔神教弟子が葉平を包囲した時。
突如として、無量の金光が葉平の体から爆発的に放射された。
この瞬間、葉平はまるで太陽のようで、その頭上には、眩いばかりの度化金輪が浮かび上がった。
「あああ!!!」
「度化金輪?」
「これが度化金輪なのか?」
「逃げろ!こいつは度化金輪を持っているぞ!」
「こいつは大夏王朝の絶世の高人だ。化けの皮を被っていたんだ」
「逃げろ!」
「噂は本当だった。奴は本当に度化金輪を持っているんだ」
「ありえない、ありえないぞ。まだ二十歳そこそこなのに、すでに度化金輪を凝縮できるなんて。信じられない、信じられない」
「急げ、急げ、急いで上の者たちに知らせるんだ。死んでも、この情報を伝えなければならない。さもなければ、もっと多くの者が奴の手にかかって死ぬことになる」
「葉平、お前は本当に陰険卑劣だ。小人物め」
「お前は魔教弟子よりも劣る。本当に卑劣だ」
数千の魔神教弟子は瞬時に度化金輪によって溶解された。一瞬のうちに、この数千人は一言も発することなく、天空の中で溶け去った。
一時的に難を逃れた魔神教弟子たちは、恐怖に震えながら、葉平を罵り、憎しみに満ちた目で睨みつけた。
しかし、彼らがどれほど罵ろうとも、結果として数千の功德の力が全て葉平の体内に吸収されていった。
この時。
魔神教弟子たちは完全に呆然となった。
夏青墨も完全に呆然となった。
肉身無敵、気血炉、瞬時の陣法、逆天の剣道の資質、そして今や度化金輪まで。
一体どんな化け物なのだろうか?
大夏王朝には化け物じみた者がいるが、ここまでの者はいないはずだ。
二十歳そこそこで気血炉を凝縮し、霊石を投げるだけで、陣器陣図も必要とせずに直接転送陣法を布置し、大夏王朝第一の御剣術を十呼吸で習得し、しかも直接第二重まで習得する。
そして今や更に凄まじいことに、度化金輪まで持っている。
夏青墨は完全に言葉を失った。
彼女はようやく葉平が何故引き返してきたのかを理解した。
この邪魔外道が最も恐れるものは何か?それは度化金光のようなものだ。まして度化金輪となれば尚更である。
賢い妹として、夏青墨は誰よりも度化金輪がどれほど驚異的なものかを知っていた。
十國の一つである晉國でさえ、度化金輪を持つ者はたった一人。
十國の首位である陳國でさえ、度化金輪を持つ者はわずか三人に過ぎない。
そして大夏王朝では、度化金輪を持つ強者は恐らく百人にも満たない。
大夏王朝には特に強力な佛門はないが、これだけでも度化金輪の凝縮がいかに困難かを証明している。
通常、度化金光を持つ得道の高人でも、千年の功德を積まなければ度化金輪を凝縮することは夢物語だ。
葉平の気血から判断して、夏青墨は確信できた。葉平の年齢は絶対に二十五歳を超えていない。
むしろ自分より一、二歳年上程度だろう。
この年齢で、すでに度化金輪を凝縮している。
本当に常識外れだ。
この時、夏青墨は完全に理解した。天外に天あり、人外に人ありという道理を。
これは本当に常識外れすぎる。
全ての魔神教弟子は、この瞬間完全に崩壊した。一秒前まで葉平を包囲し、傲慢な表情を浮かべていた者たちが、次の瞬間には蜂の巣を突いたかのように四散し、二本足では足りないかのように必死に逃げ出した。
「度化金光劍」
しかし残念ながら、これほどの功德を前に、葉平は全く容赦しなかった。
数千の金色の剣気が放たれ、大自在御劍術を習得した葉平の剣気は更に強くなり、速度も比類なき向上を遂げていた。
ほんの一瞬のうちに、また数千の魔神教弟子が度化金光劍の下で命を落とした。
葉平は天神様のようだった。
最後には、彼の肉身から万道の金光が放射され、残りの魔神教弟子を全て度化し尽くした。
前後合わせて約数万の魔神教弟子が、全て葉平の度化金輪の中で命を落とした。
数万の功德、それぞれが小さな功德ではなく、以前の百万の怨魂には及ばないものの、まさに拾い物だった。
しかし、まさにこの時、言い表せない感覚が現れ、葉平は眉を動かし、瞬時に飛び剣に乗って元の場所から消えた。
ドーン。
葉平が消えた直後、恐ろしい爆発音が響き、一振りの飛び剣がこの虚空を粉砕した。
爆発の余波は直接葉平を吹き飛ばし、気血を激しく揺さぶり、全身の毛が逆立った。
誰かが自分を襲撃したのだ。
葉平は咳き込み、沸き立つ気血を必死に抑えながら、周囲を警戒の目で見渡した。
シュッ。
また一筋の剣気が襲いかかってきた。
葉平は半歩早く原地から消え去った。大自在御剣術を修得していたからこそ可能だった。もしこの御剣術を会得していなければ、半歩早く察知できたとしても、避けることはできなかっただろう。
「恩人様、南へ向かってください。離州は南方にあり、三刻もあれば到着できます。離州に着けば、すべて安全です」
背後の夏青墨が口を開き、葉平に南へ向かうよう告げた。彼女は時間を計算していた。葉平の速度なら、三刻以内に必ず離州に到着できるはずだった。
「わかった」
葉平は無駄口を叩かず、飛び剣に乗って清風のごとく消え去り、南方へと飛んでいった。
「逃げられはしないぞ」
しかしその瞬間、韓墨の声が響いた。
彼は魔教弟子たちと共にこの地に来ていた。最初は手を出すつもりはなかった。晉國の強者たちが全員来ていたため、自分の正体を明かしたくなかったのだ。そのため密かに様子を窺い、これだけの魔神教弟子がいれば、どうあっても十姫を生け捕りにできると考えていた。
十姫を捕らえさえすれば、あとはどうにでもなる。
だが予想外なことに、葉平が度化金輪を持っていたことは、韓墨を本当に震撼させた。
今となっては、韓墨は単に十姫を生け捕りにしたいだけではなくなっていた。葉平も捕らえたいと思っていた。
葉平はこの若さでこれほどまでに驚異的な力を持っている。必ずや並外れた伝承を受け継いでいるに違いない。
彼は葉平の伝承を手に入れたかった。
「前輩、王どのはどうですか?死にましたか?目が覚めたら伝えてください。あんなに弱いとは知らなかった。知っていれば、そこまで手加減しなかったのに」
「それに前輩、師匠として教えてあげたらどうですか?修行が足りないのに人に喧嘩を売るなと。今回は私に出会えてよかったものの、他の者に出会っていたら、本当に死んでいたかもしれません」
南へ逃げながら、葉平は口を開いた。彼は意図的に韓墨を怒らせ、冷静さを失わせようとしていた。
しかし韓墨は葉平の言葉など全く気にも留めなかった。
数百年も生きてきて、そんな挑発に乗るようでは愚かというものだ。
「抵抗しても無駄だ。私の手の内から逃れることはできん」
韓墨は冷たく言い放った。
すぐさま五指を握り締め、恐ろしい剣陣が葉平の前方に現れ、すべてを切り裂かんばかりだった。
シュッ。
葉平は無駄な言葉を発せず、身を翻してこの恐ろしい剣陣を避けた。同時に、焦りの色を浮かべながら夏青墨に向かって尋ねた。
「霊石を持っていますか?」
葉平が問うた。
「いいえ……」
夏青墨は少し気まずそうにした。
彼女の持っていた霊石はほとんど使い切っていた。
「まずいな」
葉平は眉をひそめた。先ほど転送陣を設置した際に、霊石を全て使い果たしていた。
今となっては、李月からもっと霊石を貰っておけばよかったと少し後悔していた。
しかし誰が予想できただろうか。ただ家に帰ろうとしただけなのに、こんなことになるとは。
少し憂鬱な葉平は、ただ無秩序に逃げ回るしかなかった。
韓墨道人は生け捕りにしたかったため、十姫への配慮もあり、葉平も殺したくなかったので、手加減した攻撃しかしていなかった。そうでなければ、こんな状況にはならなかっただろう。
一炷香の時間が過ぎた。
葉平は四方八方に逃げ回り、まるで首のない蠅のようだった。
そしてその時、夏青墨の声が響いた。
「恩人様、前方は臨河鬼墓です。至る所に迷いの陣があり、怨気も深いので、気をつけてください」
夏青墨の声が響き、葉平に前方が臨河鬼墓であることを警告した。
「臨河鬼墓?」
一瞬、葉平は驚いた。
まさか自分が偶然にもまた臨河鬼墓に来てしまうとは思わなかった。
その瞬間、葉平は突然大胆な考えが浮かんだ。
ドン!
しかし葉平が一瞬考えに耽っている間に、韓墨の剣気が襲いかかり、恐ろしい爆発の力で葉平を高空から数千メートル先まで吹き飛ばした。
ブッ。
葉平は血を吐き出した。体内が激しく震動し、気血が暴れ出した。もし肉身が龍のように強靭でなければ、この一撃で誰であろうと死んでいただろう。
「肉身が龍のごとし、まことに恐るべし」
天空殿で、韓墨も思わず感嘆の声を漏らした。
しかし感心はそこまでで、韓墨は稲妻のように葉平に向かって突進し、依然として生け捕りにしようとしていた。
そしてその時。
葉平は瞬時に三十六の燭龍仙穴を開き、燭龍仙印を繰り出した。体内の気血が沸き立ち燃え上がり、飛び剣に乗って直接臨河鬼墓の方向へと飛んでいった。
ただ一瞬のうちに、葉平の速度は爆発的に上昇し、限界に達した。
百里の距離を、葉平は三度の呼吸もかからずに臨河鬼墓に到達した。
これが彼の限界速度だった。
「怨魂を度化して力を高めようというのか?」
「そんな機会を与えると思っているのか?」
次の瞬間、韓墨の姿も臨河鬼墓に現れた。
彼は冷たい声で言い、直ちに葉平の考えを見抜いたが、少しも慌てる様子はなく、むしろ葉平の愚かさを嘲笑っているようだった。
しかし実際の葉平の計画は。
そんなものではなかった。