子狐ちゃんが虎の妖に近づいていくとき、首にかけていた玉璧が突然まばゆい赤い光を放ち、燃えるような炎が玉璧から噴き出した。
「シュー」
高らかな鳴き声とともに、炎で形作られた鳳凰が翼を広げた!
真っ赤な炎が森全体を照らし、この瞬間、世界全体が火の海と化したかのようだった。
周りの妖怪たちは皆、驚愕の表情を浮かべ、その目に映る巨大な炎に息を呑んだ。
極度の高温にすぐさま額から汗が流れ始めた。
「こ、これは...鳳凰真霊?」
虎の妖の笑みは一瞬にして凍りついた。瞳に映る鳳凰が大きくなるにつれ、死の脅威に全身の毛が逆立った。
「ガオー!」
生涯最後の咆哮を上げ、一生分の潜在力を一瞬で絞り出すかのように、口から金色に輝く妖丹を吐き出し、まばゆい光を放った。
突如、狂風が巻き起こり、竜巻のような風の障壁を形成した。
鳳凰は翼を軽く羽ばたかせた。
バサッ!
炎は蛇のように伸び、その竜巻を包み込んでいった。
数息の間に、妖衆が目を見開いて見守る中、虎の妖は一声も上げることなく、その巨大な体が一瞬で蒸発し、跡形もなく消え去った。
鳳凰は両翼を広げ、再び炎となって玉璧の中に吸収されていった。
世界は再び静寂を取り戻した。
妖衆は皆、揃って口を大きく開けていた。
虎の妖がいた場所が空気と化すのを目の当たりにしなければ、今の出来事はまるで夢のようだった。
「タッタッタッ!」
熊妖と獅子の精は目を飛び出させんばかりに見開き、揃って三歩後退し、その眼差しは極度の恐怖を示していた。
六尾の靈狐は胸を撫で下ろしながら着地し、同様に目の前の光景に驚愕していた。自分の胸元を見つめ、そして虎の妖が消えた方向を見て、思わず全身が震えた。
なんてこと、お姉様がくれたこの玉璧はあまりにも強力すぎる!
「仙、仙...仙器?」猪妖の棲み処は震えながら、言葉も上手く出なかった。
先ほどの青い蟒蛇妖に至っては驚きのあまり干からびそうになり、体をくねらせて遠くの森へと逃げ去っていった。
まさか大物に喧嘩を売ってしまうとは?恐ろしい、死がこれほど近くに感じたことはない。
六尾の靈狐は心が落ち着き、毛並みを整えながら後ろ足で立ち上がり、得意げに言った。「他に誰か?」
「ゴクリ」
妖衆は同時に唾を飲み込み、六尾の靈狐を見つめながら、その目には畏怖の念と不満が交錯していた。
獅子の精は目に光を宿し、低い声で言った。「仙器を使うのが何の手柄になる?我々妖精が競うのは妖力だ。たかが六尾の靈狐如きが、何の資格があって妖皇様になれると?」
「そうだ、その通りだ!」
「ただの奇遇で、小さな狐如きが我々を統べようというのか?認められない!」
たちまち、無数の妖怪たちが同調した。
六尾の靈狐は石の上で不安げに跳ね回り、小さな爪で頭を掻きながら、どうすればいいのか分からずにいた。
そのとき、か弱げな姿が森の中からゆっくりと現れた。白い衣が風に揺れ、闇夜の中で特に目立っていた。
「誰が認めないと?」冷たい声が響き、妖衆は一瞬固まった。
六尾の靈狐の目は一瞬で輝き、心の支えを見つけたかのように喜びの声を上げた。「お姉様!」
「人間の女か?」獅子の精は目を細め、冷笑しながら言った。「よくも一人でここまで来たな。ここがどんな場所か分かっているのか?」
「ここは人里離れた山奥、皆様も恐ろしい顔をしておられる。もちろん妖怪の皆様ですね。」白衣の女性は口角を少し上げ、瞳に光を宿らせて言った。「ちょうどよい、私も妖怪ですから!」
サッ!
月明かりの下、九本の純白の尾が白衣の女性の背後から現れ、森の中に九本の長い影を落とした!
九本の尾が左右に揺れ、とてつもなく強大な気配が一瞬にしてこの森を包み込み、その場にいた全ての妖怪の息を止めんばかりだった。
「九尾天狐?お前は臨仙道宮の者たちに捕らえられたはずでは?」獅子の精は驚愕の表情で目を見開き、信じられない様子で口を開いた。
妲己は獅子の精を冷たい目で見つめ、氷のように言った。「最後の選択肢を与えよう。服従...それとも死か!」
「ふん、やはりただの六尾の靈狐如きが名乗り出てくるはずがないと思った。背後にお前がいたとはな!」獅子の精は目を細め、全身から放つ気配を徐々に高めながら、冷ややかに言った。「しかし、お前はまだ化形したばかりで、修練をやり直さねばならないはず。隠れているならまだしも、何の勇気があって妖皇様の座を争いに来た?死に急ぎすぎだ!」
「ガオー!」
彼は突如として本来の姿を現し、巨大な獅子となった。強大な妖力が体内から放たれ、雷鳴のような声が轟き渡った。「あの玉璧は防禦法器に過ぎず、自ら攻撃はしない。六尾の靈狐は放っておけ、皆で一緒にこの九尾の狐を倒すぞ!妖丹は山分けだ!皆の者、私に続け!」
バッ!
獅子の体から突如として炎が立ち上り、その姿は火の波のように翻り、真っ先に妲己に向かって突進してきた。
その後ろには、三十匹以上の妖怪が殺気立った様子で、戦いの叫びを上げながら続いていた。
巨大な妖力が集まり、荒々しい風となって妲己の白い衣を激しく揺らし、まるで風に乗って去ろうとする仙女のようだった。
妲己は表情を変えることなく、退かずに前進し、妖衆に向かって蓮のように優雅に歩を進めた。
この光景は、美女と野獣のような強烈な対比を生み、見る者の背筋を凍らせた。
歩みを進めるにつれ、妲己の周囲の温度が急激に下がり始め、瞳は徐々に紺碧色に変化していった。淡々と言った。「死にたいというのなら...望み通りにしてあげましょう!」
バキバキバキ!
彼女が進むにつれ、その足跡には氷の層が形成されていった!
木々や草花、そして大地までもが霜で覆われ、まるで氷の世界に来たかのようだった。
獅子の精の瞳孔が急激に縮んだ。全身が炎に包まれているにもかかわらず、寒気を感じ、心の底まで冷え込んだ。
「フッ!」
口を開けると、巨大な火球が砲弾のように妲己に向かって飛んでいった。
しかし、その火球は妲己から五メートルの距離で氷に包まれ、内部の炎は消える間もなく凍結してしまった。
獅子の精は肝を冷やし、ほとんど考えることなく振り返った。「撤退!」
だが、体が半分回転したところで、目が大きく見開かれ、やがて焦点が定まらなくなった。
口は少し開いたままだったが、最後の声すら発することができず、氷の彫像と化していた!
その後ろにいた妖怪の群れは既に恐怖で顔が歪んでいたが、何の反応もする間もなく、同様に氷の彫像となった!
見物していた妖怪たちは既に恐怖で呆然となり、頭の中は真っ白で、この状況にどんな表情を浮かべればいいのかさえ分からなくなっていた。
妲己は紺碧色の瞳で軽く一瞥し、九天仙女様のように儚げでありながら、威厳に満ちた声で言った。「私の妹を妖皇様にする。さあ、誰が賛成?誰が反対?」