第29章 上古大世の説

「お前の任務報告を見たぞ。知恵を使って畫皮妖を退治したとは、よくやった」

陸陽は心が躍った。大師姉から褒められるのは珍しいことだ。太平鄉での任務も報われた気がした。

雲芝は淡々と評価を述べた後、畫皮妖の背後にある意味を思い、眉間に陰りが浮かんだ。

「この百年、大世の到来とともに、闇に潜む各勢力が蠢き始め、鬼魅が横行している。大夏王朝は表面上は平穏に見えるが、その中にどれほどの災いが潜んでいるか分からない。大夏王朝は面子にこだわり、五大仙門に助けを求めようとしない」雲芝は軽くため息をつき、これは当然、陸陽に向けて言った言葉ではなかった。

陸陽は大師姉の言葉の中の一つの言葉に注目した。「大世の到来?」

彼はこの言葉を聞いたことがなく、書物にも見たことがなかった。

雲芝の声は遥か彼方から聞こえてくるようだった。「百年前、天策宗の太上長老さまが閉関から出て、清河に血を撒き、命を賭けて天に問うた。何を知ったのかは分からない」

天策宗は万物を測り、全てを解くことができると称され、天理は明らかで、因果応報を説いていた。落地金錢商會の保険制度に疑問を投げかけたのも彼らだった。

「太上長老さまはすぐに世間に向けて、大世が至り、上古の修仙の輝かしい盛況が再現されると宣言した」

「これまでの例では、五大仙門は一世代に一人の単霊根を輩出できれば上出来とされていた。しかし、お前たちの世代では古代蠻族、三人の単霊根、そして単霊根よりも稀少な仙體が現れた。他の仙門でもこの百年で単霊根に劣らない天才を多く集めたと聞く。これらから上古大世の一端を窺い知ることができる」

雲芝は珍しく、かすかな笑みを浮かべた。それは嘲笑のようだった。「上古大世は盛況と言われるが、実際は極めて混乱していた。大世は乱世でもあり、様々な勢力と利益が絡み合い、妖魔鬼怪が策略と駆け引きを繰り広げ、人の心は測り難く、生死は天に委ねられ、数え切れない無辜の命が失われて、ようやく一人の修仙の達人が現れた。平和と安定さでは今の時代に遠く及ばない」

陸陽は大師姉の笑みが冷たく感じられた。

陸陽は書物で上古大世についての記述を見たことがあった。上古大世では実力が全てであり、勝者が王となり、正邪の区別はなく、人族もその時代では諸強の一つに過ぎず、今日の大陸の覇者の地位には程遠かった。

妖魔が現れ、竜虎相争い、天才たちが天下を縦横無尽に駆け巡り、血と骨で威名を築き、果断に殺戮を行い、さらに無数の大能者がこの過程で万人が敬仰する伝説となり、修士が一生をかけても届かない目標となった。それを読むと本当に胸が高鳴り、その時代に行って自分の才能を示したくなるほどだった。

まさにこのような乱世だからこそ、様々な英雄豪傑が頭角を現す機会があったのだ。

しかし、大師姉のこの表情を見て、陸陽はようやく気付いた。上古大世は天才にとっては良いことかもしれないが、一般の人々にとっては地獄のような悪夢だったのだ。

朝に生まれ夕べに死に、命は風前の灯火のようで、上層部の些細な衝突で、自分の族人が奴隷や囚人となり、人々の奴隷となって殺されるがまま、安寧など望むべくもなかった。

書物に描かれた上古大世は波瀾万丈だったが、それは作者自身が上級修士で、その時代の光景に憧れていたからだ。

一般人の視点に立てば、全く異なる光景となる。

陸陽は気付いた。修士になってから、自分がかつて凡人だったことを忘れかけていた。

これではいけない。

雲芝はこの話題についてこれ以上語らなかった。陸陽にとってはまだ早すぎる話だった。「他に聞きたいことはあるか?」

「あの、大師姉、ここに移動用の法術はありますか?」

「もちろんあるが、そのような法術を何に使うつもりだ?」

問道宗と落地金錢商會には協定があり、問道宗の弟子が外出する際の宿泊や移動の費用は全て問道宗の勘定に記録され、陸陽は飛舟に乗っても靈石を出す必要がなかった。移動用の法術を学んで何に使うというのか?

陸陽は頭を掻きながら、珍しく恥ずかしそうな表情を見せた。「別に、ただ学びたいだけです。問道宗の出費を抑えたいと思って」

雲芝は疑問に思わなかった。「そういう心遣いがあるなら、師姉としてもお前の願いを無下にはできないな。お前は今、築基したばかりだから、使える法術は多くない」

陸陽はニヤニヤしながら手を擦り合わせた。「使えるものがあればいいんです」

「この一年の修行を見ていたが、剣霊根の名に恥じない。私が飛劍術を教えよう。飛剣に乗って五湖四海を巡ることができる」

「それに縱橫術もある。神識を鍛え、神識で体を動かして自由に飛行できる。飛劍術ほど速くはないが、力を使わなくて済む利点がある。神識を鍛えることは後の戦闘にも役立つ」

「變化術も選択肢の一つだ。習得すれば鳥に変化して空を自由に飛べる」

「小師弟よ、どれを選ぶ?」雲芝は何気なく数種の法術を挙げ、陸陽に選択させた。

「……あの、飛ばない法術はありませんか?」

雲芝は興味深そうに顔を赤らめる陸陽を見た。「ほう、なぜ飛ばない移動法術を学びたいのだ?」

陸陽は言葉を詰まらせ、なかなか話せなかった。

雲芝はそれ以上追及しなかった。「飛ばない法術もある。ただし、この法術は極めて高い道法の悟性が必要で、法力にも要求がある。今のお前が学ぶには、少し早いかもしれない」

「大丈夫です、まずは試してみましょう。できなければそれまでです」

「この法術は縮地成寸の術という。修練の難度は極めて高い。これが心法口訣だ。お前が暗記したら、正式に教えよう」

雲芝は玉手を上げ、さっと空間を切り開いて、金色の紙を取り出した。その紙には整然と清秀な文字が並んでいた。

陸陽は慎重に金色の紙を受け取った。これは一目で価値の高いものと分かった。もし破いてしまったら大変なことになる。

陸陽が去った後、雲芝は目を閉じて修練を続けていた。陰風が吹き込み、耳元に老いた怨めしい声が響いてきた。人を戦慄させ、氷窟に落ちたかのような声だった。

「私の愛弟子よ、まだ師を閉じ込めておくつもりか?」

その声は九幽地獄から響いてくるかのようで、背筋が凍るほど恐ろしかった!

「師がお前を教えた回数は多くないが、お前が今日の境地まで修練できたのは、大変なことだ。師はお前を誇りに思っている」

「一日の師は終身の父というが、お前は師の教えの恩を忘れ、師をここに閉じ込めておくのか」

「問道宗は十年も宗主不在だ。お前が師に代わって宗主の権限を行使しているが、噂や批判を恐れないのか?大師姉の輝かしい評判に影響が出るぞ?」

「お前が師に代わって弟子を取り、剣道の天才を弟子にしたことは、まあ良しとしよう。師は深く追及はしない」

「せめて師を解放して、私の弟子に会わせてくれ。真人に拝謁させず、ただ師の肖像画に拝ませるとは、世間の笑い種になるではないか?」

その声には魔力が宿っており、心の琴線に触れ、思わず従いたくなる。封印を解いて、声の主を解放したくなるような力があった。

雲芝は黙々と修練を続け、まるで聞こえていないかのようだった。

老いた声は雲芝が動じないのを見て、千言万語を一つの長いため息に変え、地に沁みるように消えていった。まるで最初から存在しなかったかのように。

雲芝は五心を天に向け、全ては変わらなかった。