穆紫萱の声を聞いた途端、すでに混乱して情に溺れていた楚語琴は瞬時に我に返った。
彼女は急いで路辰を押しのけ、焦りながら言った。「辰ちゃん、早く離して、紫萱が入ってくるわ!」
路辰は泣きたい気持ちだった。
愛しい王妃よ、なぜほかの時ではなく、この時に来るのか!
その後、路辰は仕方なく楚語琴から手を放した。
しかし楚語琴はすぐには逃げ出さず、路辰を見つめながら心配そうに尋ねた。「辰ちゃん、少しは良くなった?」
路辰は頷きながら言った。「うん、だいぶ良くなった。やはりこの方法は効果があるようだ。」
「楚おばさん、これからも定期的に体調を整えるのを手伝ってくださいね。」
楚語琴は言った。「紫萱たちに手伝ってもらえないの?」
路辰は答えた。「紫萱たち三人は武士ではないから、內力がない。だめなんだ。それに傾辭は私に感情がないようで、双修の術の条件を満たせない。」
路辰の言葉を聞いて、楚語琴は頭が燃えそうになり、急いで言った。「わかったわ。これから具合が悪くなったら私を訪ねてきなさい。私は先に出ていくわ。」
そう言うと、楚語琴は即座にドアへ向かった。
穆紫萱は楚語琴がドアを開けた瞬間、一瞬呆然とした。
楚語琴は慌てて説明した。「辰ちゃんの体調を診てきただけよ。あなたたちで話して、私は先に失礼するわ。」
言い終わるや否や、楚語琴は急いで立ち去った。
楚語琴の慌てた後ろ姿と、真っ赤な顔を見て、穆紫萱は先ほど何が起きたのか即座に察した。
彼女は路辰の方を向いて謝罪した。「王様、妾の不覚でございます。お邪魔してしまい申し訳ございません。今後は気をつけます。」
その言葉を聞いて、路辰は微笑んで言った。「気にするな。楚おばさんとただ話をしていただけで、人目を憚るようなことは何もしていない。」
「そうだ、愛妃、何か用事があったのか?」
穆紫萱はすぐに書斎に入って答えた。「王様……」
穆紫萱が話そうとした時、突然鼻を突く匂いに気付いた。路辰の王妃として、穆紫萱はこの匂いが何なのかよく分かっていた。
穆紫萱は呆れたように路辰を見つめた。人目を憚るようなことは何もしていないと言ったのに、部屋にはこんなにも強い匂いが漂っている。