九条政の顔は、恐ろしいほど険しかった。
娘とは仲が悪かったが、細かいことを気にする人間ではないと思っていた。
だからこそ、先に結衣に靖子を受け入れさせ、それから九条家に連れて行こうと考えていた。結衣がいれば、お祖父様も靖子を受け入れるだろうと考えていた。
しかし、今回は完全に読み違えていた。
結衣は靖子に容赦しないばかりか、自分には全く反撃の余地を与えない。
木村靖子も、九条政が九条結衣の前で、これほどまでに無力だとは思っていなかった。
しかし、九条政が頼りにならないなら、藤堂澄人がいる。
九条結衣がどんなに強がっていても、藤堂澄人の前では大人しくなるはずだ。
そう考えると、木村靖子は少し安心した。
九条政と藤堂澄人を見た後、彼女は目を伏せ、涙を浮かべながら唇を噛みしめ、できるだけ悲しみをこらえた。
九条結衣が自分の前を通り過ぎようとした時、木村靖子は彼女の腕を掴み、跪きついた。
「お姉さん、ごめんなさい。私が悪かったの。お父さんも、私を連れてきてお姉さんを怒らせるべきじゃなかったわ。どうか、お父さんを許してあげて。ごめんなさい、お姉さん…」
木村靖子の健気な姿は、誰の目にも痛々しく映った。
九条結衣は、自分の腕を掴む手を見下ろし、冷笑した。
どんなに可哀想なふりをしても、九条結衣は騙されない。しかし、相手がここまでしてくれるのなら、受け入れてやろうじゃないか。
「そんな簡単に土下座するなんて?」
木村靖子の悲しそうな様子を見て、九条結衣は嘲笑した。「私のおじい様は軍人だったの。九条家の人間は、立って死ぬならともかく、跪いて生きるくらいなら死を選ぶ、そう言っていたわ。そんなに簡単に土下座するなんて、そんなことで、よくも九条家を名乗れるわね?」
そう言うと、九条結衣は九条政を意味深に見つめながら、続けた。「よく調べた方がいいわよ。誰の子供か、本当に分かってるの?」
九条政が顔を青ざめ、木村靖子が顔面蒼白だった。九条結衣は木村靖子の手を振り払い、まるで汚いものでも触ったかのように服の埃を払った。
「お姉さん、私…」
言葉を遮るように、九条結衣は冷たい視線を向けた。木村靖子は、何も言えなくなってしまった。
木村靖子は怒りで体が震え、拳を握り締めていた。
初めて九条結衣と対峙したが、まさかここまで手強い相手だとは思わなかった。
九条結衣は二人に何も言わず、部屋を出る前に、黙って座っている藤堂澄人を軽蔑の眼差しで一瞥した。
藤堂澄人は、一体どんな趣味をしているんだ?
あんなあざとい女に惚れるなんて、彼女は藤堂澄人のセンスを疑った。そして、自分も見る目がなかったと、なぜあんな男に惹かれてしまったのかと自嘲した。
九条結衣の軽蔑するような視線に、藤堂澄人は不快感を覚えた。
4年ぶりの再会。九条結衣はまるで別人のようだった。以前のように、尊敬と愛情に満ちた眼差しを向けることはなかった。いや、彼女は変わったのではなく、本来の姿に戻っただけなのだ。
「お邪魔して悪かったわね。三人でゆっくり食事を楽しんで」
そう言い残し、何気なく振り返ると、案の定、藤堂澄人の意味深な視線とぶつかった。途端に喉が渇き、藤堂澄人への憎しみは、さらに深まった。
九条政も、木村靖子も、どうでもいい。しかし、この男だけは許せない。かつて深く愛し、忘れようとしても忘れられない男が、二人と一緒になって自分を侮辱したのだ。