離婚への強い意志

3年間、何も言わずに尽くしてきた時間が、今、藤堂澄人に無残にも踏みにじられた。痛みと冷たさが、九条結衣の心を突き刺す。しかし、そのおかげで、彼女は完全に目が覚めた。

憎しみの色が濃くなる。九条結衣は藤堂澄人を見つめ、強い意志を込めた、冷たく鋭い声で言った。

「澄人、早くサインしなさい!」

そう言い放つと、九条結衣は背筋を伸ばし、二人に背を向けて出て行った。その姿は、まるでプライドの高い孔雀のようだった。

九条結衣の毅然とした後ろ姿に、藤堂澄人は目を細めた。離婚届にサインしろと言う時の、彼女の憎しみに満ちた視線が、彼の心を乱す。

彼女は離婚したいのだ。絶対に離婚したいのだと、藤堂澄人は今までこの瞬間ほど確信したことはなかった。

部屋を出て行く時の、彼女の冷たく突き放すような視線を思い出すと、胸が締め付けられるように痛んだ。

木村靖子は、九条結衣が藤堂澄人に離婚届を提出したことは知っていたが、彼がまだサインしていないことは知らなかった。

4年間、九条結衣がいなくなったことで、自分が藤堂澄人と結婚できると思っていた。しかし、彼は4年間ずっと独身で、他の女性と付き合うことはなかった。

彼女は、きっと、九条結衣とは関係ない、そう自分に言い聞かせてきた。藤堂澄人が九条結衣を嫌っているのは明らかだった。彼女のために、独身を貫いているはずがない。

しかし、4年間待っても、藤堂澄人は離婚届にサインしようとはしなかった。それどころか、九条結衣の方が離婚を急いでいるようだ。

九条結衣が自分から離婚を切り出すとは、思ってもみなかった。藤堂澄人が彼女を憎んでいることは知っていた。7年間も待ってきたのに、彼が離婚する気は全くないのだと、今更ながらに気づいた。

レストランを出ると、九条結衣は緊張から解放され、力が抜けた。

藤堂澄人が木村靖子の味方をして、自分は一人で九条政と対峙しなければならなかったことが、悔しかった。

さっきの激しい口論は、九条政に対しての怒りなのか、それとも藤堂澄人に対しての怒りなのか、自分でも分からなくなっていた。

あるいは、二人から愛されている木村靖子への嫉妬心なのかもしれない。

結婚する前から、木村靖子の存在は知っていた。義理の妹である藤堂瞳から、何度も聞かされていた。

ただ、木村靖子のことを調べる気にはならなかっただけだ。

藤堂澄人の前では、自分の才能を隠し、彼と結婚するために、九条グループを賭けに出た。いつか、彼に心から愛される日が来ると信じていた。

しかし、結局、何も得ることはできなかった。それどころか、プライドをズタズタに引き裂かれただけだった。

レストランの中で、楽しそうにしている3人の姿を思い浮かべると、九条結衣は胸が締め付けられる思いがした。

長年、藤堂澄人に抱いていた想いは、跡形もなく消え去っていた。

レストランでは、木村靖子がまだ跪いたままだった。九条結衣に屈辱的な言葉を浴びせられ、顔を蒼白にしていたが、怒りを押し殺し、ただひたすらに耐えるしかなかった。

今は、耐えるしかないのだ。

「靖子、もういい。立ち上がりなさい」

九条政は木村靖子に手を差し伸べ、彼女を立たせた。悲しそうな娘の姿を見て、初めて自分のふがいなさを感じた。

木村靖子も、九条政が無能だと思っていた。しかし、それを顔に出すことは決してなかった。