数時間が経っても、藤堂澄人の苛立ちは収まらなかった。九条結衣が他の男と話す時の優しい表情が頭から離れない。
ワイングラスを手に窓際に立つ彼の姿が、明るく広々とした窓ガラスに映し出されていた。その冷たい瞳の奥には、長年積もり積もった憂いが沈んでいた。
骨ばった指先が、グラスの脚を掴む力が、次第に強まっていく。まるで、その繊細なグラスを握りつぶしてしまうかのように。
九条結衣に、あの男は誰だと尋ねた時の、彼女の動揺を思い出すと、藤堂澄人は、ますます苛立ちを募らせた。
グラスを傾け、一気にワインを半分ほど飲み干したが、胸の中に燃え上がる炎は消えるどころか、ますます激しくなっていく。
ふと、テーブルの上に置かれた携帯電話に目が留まり、手に取って九条結衣に電話をかけようとした。しかし、発信しようとした瞬間、彼女の連絡先を全く知らないことに気づいた。