九条結衣が携帯電話に何度もキスをしているのを見て、藤堂澄人は怒りで顔が引きつった。
4年間で、他の男を作ったのか?
その考えに、藤堂澄人の心は沈んだ。
九条結衣の楽しそうな笑顔が、彼の目に突き刺さる。
九条結衣は、藤堂澄人がすぐ後ろにいることに気づかず、電話を切ると、車の鍵を返してもらおうと彼の方へ向き直った。すると、藤堂澄人が鬼のような形相で立っており、まるで今にも彼女を食い殺してしまいそうだった。
彼女は先ほどのレストランで、木村靖子を散々侮辱したことを思い出し、彼を怒らせてしまったのだろうと思った。
誰だって、愛する人が侮辱されれば黙っていられない。ましてや、藤堂澄人ならなおさらだ。
これ以上、彼と話したくなかった。九条結衣は藤堂澄人に手をかざし、「藤堂社長、急いでいるので、鍵を返してください」と言った。
「あの男は誰だ?!」
怒りに燃える藤堂澄人の言葉に、九条結衣は一瞬戸惑った。
思わず、「どの男のこと?」と聞き返した。
しかし、すぐに後悔した。なぜ、藤堂澄人に説明する必要があるのだ?
「電話に出ていた男だ!」
九条結衣以外、誰も藤堂澄人がこんな姿を見せたことはない。まるで、大切な宝物を奪われたような、そんな恐怖に襲われていた。
電話の相手の男?
九条結衣は少し考え、彼が誰のことを言っているのか理解した。
電話の相手と、目の前の男との関係を考えると、九条結衣の表情がわずかに変わった。
そして、視線をそらした。
その様子は、まるで浮気をした妻が夫を前にうろたえているようだった。藤堂澄人は、彼女が他の男と同棲していると確信した。
「結衣、よくも…」
「鍵を返して!」
九条結衣は、藤堂澄人の言葉を遮った。子供のことだけは、絶対に知られたくなかった。
「答えろ!」
藤堂澄人は怒鳴り、目が血走っていた。九条結衣は、彼がこんなに取り乱す姿を見たことがなく、たじろいだ。
もし、藤堂澄人が自分を憎んでいることを知らなければ、嫉妬しているのだと思ってしまうだろう。