彼女の過去の行いを思い出すたびに、彼は吐き気がするほどの嫌悪感に襲われ、今すぐにも絞め殺したくなる衝動に駆られる。
「わかった」
しばらくして、九条結衣の静かな声が返ってきた。それだけ言うと、彼女はクローゼットへ向かった。
藤堂澄人は顔を上げ、細い背中に視線を止めた。彼女の反応は、復讐の快感どころか、更なる苛立ちを彼にもたらした。
九条結衣は服を着替え、クローゼットから出てきた。濡れた髪が頬に張り付き、化粧っ気のない顔は、それでも見るものを惹きつける美しさだった。
どんなに憎く、嫌悪していても、認めざるを得なかった。この女は、息を呑むほど美しい。初めて会ったあの日から、ずっと…
彼は強く目を閉じ、それ以上考えないようにした。
九条結衣も、藤堂澄人がまだ部屋にいるとは思っていなかった。足を止め、少し迷った後、彼の方へ歩み寄ると、ちょうど藤堂澄人が突然開いた目と目が合った。
吸い込まれそうなほど黒い瞳。3年間、何を考えているのか、理解できたことはなかった。そして今、自分がこれまで頑張ってきたことに、一体何の意味があったのか、疑問が湧き上がった。
「澄人…」
何度か口を開こうとしたが、結局、言いたい言葉は飲み込んだ。
そして、静かに言った。「ごめんね。私の片想いが、あなたをこんなに苦しめていたなんて、知らなかった」
言葉を発した瞬間、胸に針を刺されたような痛みを感じた。
藤堂澄人を諦めようと決心した今、その鈍い痛みはより一層強く感じられた。
もう一度顔を上げると、3年間、何度も諦めかけながらも抱き続けていた未練が、薄らいでいくのを感じた。
「ごめんね」という言葉に、藤堂澄人の胸は締め付けられた。
元々冷たかった瞳が、穏やかで吹っ切れたような彼女の表情に釘付けになり、心に奇妙な動揺が走った。
言葉を言い終えると、九条結衣は振り返りもせず、部屋を出て行った。かつて、彼を追い求めていた瞳は、もう彼を見ていなかった。
彼女が部屋を出て行った瞬間、藤堂澄人の動揺はさらに大きくなった。思わず、「どこへ行くんだ!」と声を荒げた。
「病院へ。おばあちゃんのお見舞い」
九条結衣は振り返らず、答えた。
藤堂澄人は苛立ちを隠せない。なぜ、この忌々しい女は、あんなことを言うんだ。自分が情にほだされるとでも思っているのか?
たった一言の謝罪で、彼女の忌まわしい過去を許せると思っているのか?
「行く必要はない。おばあちゃんはまだ昏睡状態だ。部外者は邪魔になるだけだ」
部外者…
九条結衣は苦々しく口角を歪め、その言葉を受け入れた。
「わかった」
小さく返事をして、続けた。「少し忙しいから、落ち着いたら出て行くわ」
3年間も頑張ってきたのに、結局、無駄だった。自分の執着も、藤堂澄人を動かそうとしてきた努力も、全てが滑稽に思えた。
それは、藤堂澄人がずっと望んでいた言葉だった。しかし、実際に耳にした途端、満足感どころか、むしろ心の戸惑いと苛立ちは増すばかりだった。
冷たく九条結衣を一瞥し、彼は皮肉っぽく言った。「数日待てば、俺の気が変わるとでも思っているのか?」
嘲弄するような口調に、九条結衣は眉をひそめ、振り返った。嘲笑以外には何もない、冷たい視線をまっすぐに見つめる。
「澄人、3年間もあなたの気持ちが変わらなかったのに、数日で何か変わると思ってるの?自分にそんなに自信がないの?」