九条結衣が病室に入ると、藤堂瞳は笑顔を消し、不機嫌な顔になった。
「結衣!なんであんたがここにいるのよ!」
藤堂瞳は九条結衣を見て驚いた。4年前、彼女が何も言わずに姿を消してから、もう二度と会うことはないと思っていたからだ。
まさか…
ふん! やっぱり、この女が兄のことを諦めるはずがない。恥知らずな手を使って結婚したんだから、そう簡単に手放せるわけがない。
藤堂瞳は、九条結衣のことを良く思っていなかった。以前は、九条結衣も藤堂瞳の機嫌を取ろうとしていた。藤堂澄人の妹なのだから。
しかし、今は違う。
藤堂瞳の夫である植田涼は、九条結衣の姿を見ると、椅子から立ち上がった。
九条結衣が藤堂澄人の妻だとは知らなかったので、妻の態度に戸惑い、咎めるように彼女を見た。
「瞳、そんな言い方はないだろう。瞳と赤ちゃんの命は、九条先生に助けていただいたんだぞ」
藤堂瞳は植田涼の言葉の意味が分からず、口元を歪め、鼻で笑い、電話に向かって、わざと大きな声で言った。「靖子、また後でね。早く来て。兄さんもいるから」
これは明らかに、九条結衣を困らせようとしての行動だった。そう言いながら、わざと彼女の方を見たが、結衣はどこ吹く風といった様子で、病室の入り口に突っ立っており、藤堂瞳の言葉など、全く気にかけていないようだった。
藤堂瞳は怪訝そうに九条結衣を見て、電話を切った。
「出産直後なので、安静にしてください。長時間の通話は控えた方がいいですよ」
九条結衣はカルテを手に、藤堂瞳に近づき、淡々と言った。
「あんたの言うことなんか聞くものか。4年も逃げ回って、今更戻ってきて、何がしたいのよ?兄さんがまだ、あんたを妻だと思ってると思ってるの?」
藤堂瞳は、九条結衣にきつい言葉を浴びせた。
「瞳、失礼だぞ」
植田涼は、妻の態度に我慢ができなかった。彼女は小さい頃から甘やかされて育ったので、わがままで傍若無人だった。
今回、九条先生がいなければ、妻と子供は助からなかったかもしれないのに、この態度はひどすぎる。