「ええ」
九条結衣は短く返事をして、藤堂瞳の診察を続けた。
診察を終え、聴診器を外しながら言った。「心臓への負担が大きすぎるので、すぐに手術をした方がいいでしょう。ご家族でよく相談してみてください」
彼女の口調は、完全に医者のものだった。まるで、「家族」という言葉から自分を切り離しているかのようだった。
以前の九条結衣は、こんな口調で話したことはなかった。兄に良い印象を与えようと、藤堂瞳の機嫌を常に取っていたのだ。
今の九条結衣の態度は、藤堂瞳にとって受け入れがたいものだった。
「これは私の問題よ、余計なお世話よ」
「医師として、あなたの状態をお伝えする義務があるだけです。聞くか聞かないかは、あなたの自由です」
九条結衣は冷静にそう言うと、聴診器をポケットにしまった。その時、藤堂澄人が電話を終えて病室に入ってきた。
九条結衣は藤堂澄人に背を向けていたので気づかなかったが、藤堂瞳は兄の姿を見ると、目を輝かせ、何かを企んでいるような表情になった。
「結衣、何様のつもり?あんたのこと、義姉だなんて思ってないわよ。兄さんも私も、あんたのことなんて認めてないんだから」
藤堂瞳の言葉に、九条結衣は鼻で笑った。
「その根拠のない自信は、澄人とそっくりね。さすが兄妹だわ」
九条結衣の言葉には、嘲りが込められていた。
藤堂瞳は一瞬、目を丸くした。今まで、こんな口の利き方をされたことはなかったからだ。
九条結衣の言葉に込められた明らかな皮肉を、彼女が聞き逃すはずはなかった。
「どういう意味?」
藤堂瞳は眉をひそめ、九条結衣を睨みつけた。
九条結衣は、これ以上回りくどい言い方はやめ、カルテを藤堂瞳の足元に放り投げ、強い口調で言った。
「よく聞きなさい、瞳。あなたに我慢してきたのは、あなたが怖かったからじゃない。澄人のことが大切だったから、その妹であるあなたのことも気にかけていたのよ。でも、もう澄人はいらない。あんたみたいな妹に、何の価値があるっていうの!」
最後の言葉を言い放った時、九条結衣の目は冷たく光っていた。