「ええ」
九条結衣は短く返事をして、藤堂瞳の診察を続けた。
診察を終え、聴診器を外しながら言った。「心臓への負担が大きすぎるので、すぐに手術をした方がいいでしょう。ご家族でよく相談してみてください」
彼女の口調は、完全に医者のものだった。まるで、「家族」という言葉から自分を切り離しているかのようだった。
以前の九条結衣は、こんな口調で話したことはなかった。兄に良い印象を与えようと、藤堂瞳の機嫌を常に取っていたのだ。
今の九条結衣の態度は、藤堂瞳にとって受け入れがたいものだった。
「これは私の問題よ、余計なお世話よ」
「医師として、あなたの状態をお伝えする義務があるだけです。聞くか聞かないかは、あなたの自由です」
九条結衣は冷静にそう言うと、聴診器をポケットにしまった。その時、藤堂澄人が電話を終えて病室に入ってきた。