再び感じる痛み

婦人科の診察室に着くと、藤堂澄人はようやく九条結衣を降ろした。診察室は女性患者ばかりなので、藤堂澄人は中に入るのをためらい、外の待合室で待つことにした。

「これは、出産時の後遺症ね。薬を出しておくから、ちゃんと治療しないと、またひどい痛みが出る」

「わかりました。ありがとうございます、山下部長」

「もっと自分の体を大切にしなさい!」

山下部長は、以前、九条結衣の指導医だったため、彼女とは親しい間柄だった。

九条結衣が突然妊娠した時、山下部長は何も聞かなかった。彼女のプライベートなことだと思ったからだ。しかし、この症状は、明らかに出産が原因だった。

九条結衣は笑ってごまかした。

「お子さんのお父さんは?彼は結衣の面倒を見てくれないのか?」

九条結衣は、自分をここに連れてきた藤堂澄人のことを思い出し、即座に答えた。「死にました!」

「…」

九条結衣があまりにもあっさりと答えたので、山下部長はそれが本当なのか嘘なのか分からず、それ以上は聞けなかった。

注意事項を伝えた後、彼女を帰らせることにした。

診察室を出ると、待合室でひときわ目立つ男の姿が目に入った。九条結衣は驚き、思わず足を止めた。

藤堂澄人はとっくに帰ったと思っていたのに、まさかここで待っているなんて。

あの藤堂社長が、わざわざ自分を待ってくれているなんて、よっぽど重要な用事があるに違いない。

九条結衣は考え込んだ。そして、思い当たるのは一人しかいなかった。木村靖子だ。

そう考えると、九条結衣は皮肉な笑みを浮かべ、藤堂澄人を冷たく見て、歩き出した。

九条結衣が出てくるのを見た藤堂澄人は、彼女が無視して立ち去ろうとするのに苛立ち、長い脚で彼女に追いついた。

九条結衣は、行く手を阻む藤堂澄人を冷淡な目で見つめた。

彼女の冷たい視線にはもう慣れたと思っていたが、それでも藤堂澄人は寂しさを感じた。