「あなたへの未練は全て消え去った」という言葉に、藤堂澄人の怒りは消え、焦燥感だけが残った。
九条結衣はそう言うと、藤堂澄人の手を振りほどいて立ち去ろうとしたが、再び彼に引き止められた。
「結衣、もう一度チャンスをやる。離婚届を撤回しろ」
彼は彼女の耳元で囁いた。吐息の熱さが耳をくすぐり、九条結衣の敏感な耳たぶは瞬く間に赤くなり、背筋もピンと伸びた。
怒っているはずなのに、彼の行動はどこか挑発的で、甘い雰囲気を醸し出していた。
この数日、九条結衣には藤堂澄人の気持ちが全く分からなかった。
4年前に渡した離婚届に、彼が未だにサインしていない理由も、分からなかった。しかし、そんなことを考えている暇はなかった。
藤堂澄人の整った顔を見ても、もう何も感じない。