藤堂澄人は怒りを抑えきれず、車を飛ばして第一総合病院へ向かった。
車を降りた彼の周りには、近寄りがたいほどの威圧感が漂い、人々は思わず距離を取った。
いつものように、救急救命室の慌ただしい雰囲気に、藤堂澄人は眉をひそめた。
「しっかり押さえて!動かないように!」
聞き覚えのある声、少し息が上がっている。
振り返ると、九条結衣が救急カートにひざまずき、交通事故で重症を負った患者の処置をしていた。
彼女の手、顔、服は、患者の血で汚れていた。しかし、真剣な表情で処置に当たる彼女の姿から、藤堂澄人は目を離すことができなかった。
彼は、患者の搬送と共に、救急処置室へ入っていく九条結衣の姿をじっと見つめていた。
30分ほどして、九条結衣が救急処置室から出てきた。
顔にはまだ血痕が残り、手にも乾いていない血がついている。数歩歩いたところで、険しい顔をした藤堂澄人と鉢合わせた。
救急救命室で藤堂澄人を見かけた九条結衣は、少し驚いたようだったが、すぐにいつもの冷静な表情に戻った。
藤堂澄人を見ようともせず、彼女は洗面所へ向かった。
普段から化粧をしない九条結衣は、水で顔を洗うと、素顔が現れた。実年齢よりもずっと若く見える。
洗面所から出ると、藤堂澄人がそこに立っていた。何も言わず、じっと彼女を見つめている。
九条結衣は行こうとしたが、藤堂澄人に止められた。
九条結衣は眉をひそめ、苛立った様子で藤堂澄人を見上げた。「何の用?」
藤堂澄人は、本当は、九条結衣にあの「浮気相手」のことを問い詰めるつもりだった。しかし、30分ほど冷静になった後、九条結衣の冷ややかな瞳と、少し青ざめた顔を見て、怒りが収まってしまった。
特に彼女の顔に浮かぶ蒼白さを見て、30分以上心の中で準備していた言葉は、この瞬間——
「なぜ、俺の電話に出ない?」
九条結衣は一瞬、驚いた。まさか、藤堂澄人がわざわざ自分にこんなことを聞きに来たとは思ってもみなかったからだ。
「出たくなかったから」