この2日間、九条結衣に会っていないのに、彼女の顔が何度も頭に浮かび、いても立ってもいられなくなっていた。
携帯電話をじっと見つめた後、藤堂澄人は意を決して九条結衣に電話をかけた。
電話の着信音が鳴り響く。九条結衣は、4年経っても忘れられない番号が表示されているのを見て、表情を曇らせた。
以前、藤堂澄人が自分に電話をかけてくることはなかった。この2日間で、何度も電話を切っているのに、またかけてくるなんて、一体どうしたのだろう。
結婚していた3年間よりも、この2日間の方が、藤堂澄人からの電話が多い。立場が逆転したようだ。
「電話をずっと見てるけど、どうして出ないんだ?」
ふざけた口調で話しかけられ、九条結衣は我に返った。慌てて携帯電話をカルテの下に隠し、電話を切るのも忘れて、目の前の男を見上げた。見るからに女たらしの雰囲気だ。
電話が繋がった。藤堂澄人は、ほっと息をつき、何かを言おうとしたその時、九条結衣の声が聞こえた。
「別に。セールスの電話よ。何か用?」
セールス?
自分のことか?
藤堂澄人の顔色が、さらに険しくなった。
「結衣!」
彼は怒鳴ったが、九条結衣は聞いていないようだった。そして、男の声が聞こえた。
「来週、俺の両親に会う準備はできてるか?」
「もちろん。大丈夫よ、失敗しないから」
両親に会う?
「両親に会う」という言葉に、藤堂澄人は携帯電話を握り潰しそうになった。彼の表情は、怒りで歪んでいた。
九条結衣の自信に満ちた声は、まるで相手の両親に会う準備は万端だと言っているようだった。
あいつが、九条結衣の男か?
藤堂澄人は、怒りなのか、悲しみなのか、自分でも分からなくなっていた。とにかく、九条結衣が他の男の両親に会いに行く場面が、頭から離れない。想像するだけで、胸が締め付けられるように痛んだ。
彼は携帯電話を投げつけ、怒りに燃える目で叫んだ。
「結衣、お前はまだ俺の妻だぞ!」