ツンデレもほどほどに

社長室からは、朝から怒鳴り声が聞こえてくる。すでに5人以上の部長が呼び出され、叱責を受けている。社員たちは皆、息を潜め、自分が次のターゲットにならないように祈っていた。

企画部の部長は、藤堂澄人に投げつけられた企画書を手に、しょんぼりとした様子で社長室から出てきた。すでに10回以上も修正しているが、これ以上どう修正すればいいのか、分からなかった。

「松本秘書、これ…」

松本裕司は企画部長の困り顔を見て、同情しながら肩を叩いた。「社長の機嫌が悪いから、仕方ないよ」

藤堂グループの社員たちは皆、一体誰が社長を怒らせたのか、分からずにいた。

藤堂社長は、近寄りがたい雰囲気だが、感情をコントロールするのが上手い人間だ。人前で怒鳴り散らすことなど、滅多にない。一体誰が、社長の逆鱗に触れてしまったのだろうか。

社長の側近である松本裕司だけは、その理由を知っていた。そして、誰よりも社長の怒りの矛先が自分に向けられる危険性が高いことを、誰よりも理解していた。

「松本!」

松本裕司が、どうやって社長の怒りを回避しようかと考えていると、社長室から彼の名前を呼ぶ声が聞こえた。

社員たちは皆、同情の眼差しで松本裕司を見送った。まるで、これから処刑台へ向かう彼を見送っているようだった。

松本裕司は深呼吸をし、スーツの襟を正してから、覚悟を決めたように社長室のドアを開けた。

「社長」

藤堂澄人の鋭い視線に、松本裕司は思わず身震いした。

こんな高圧的な状態が続けば、心臓がもたない。

奥様、どうかこれ以上、社長を怒らせないでください。あなたのせいで、私たちがこんな目に遭うんだから。

松本裕司は、九条結衣の機嫌を取るために、何でもしてあげたいと思った。

「結衣の男が誰なのか!調べろ!」

まだ離婚もしていないのに、他の男が自分の妻に手を出すとは、許せない!

「…」

奥様のプライベートを調べるなんて、ちょっと…

ツンとしているうちはいいけれど、後で後悔することになるぞ。

忠告した方がいいのだろうか?