病院での再会

藤堂瞳は救命救急室に30分もいなかった。すぐに手術室へ運ばれ、それから数時間に及ぶ手術が始まった。

その時、藤堂澄人は手術室の外に立ち、妹の安否を気遣いながらも、心の中では、あの冷淡でまるで別人のように冷たい女のことを考えていた。

4年ぶりに会った彼女は、以前よりずっと大人びて、仕事もできる女性になっていた。その立ち振る舞いからは、すべてを掌握しようとする強い意志が感じられた。

3年間、自分の言いなりだった、あの頼りない女とはまるで別人だ。まるで違う魂が、九条結衣の体に入り込んだかのようだった。

4年…

こんな緊迫した状況で、再び会うことになるなんて。

4年という時間は、長そうで短く、妻だったはずの彼女を、遠く、そして見知らぬ存在にしてしまっていた。

九条結衣が4年前に送ってきた離婚届は、まだ自分の机の引き出しに眠っている。それを思い出し、藤堂澄人の胸は騒いだ。

8年前、彼女が自分にした、許しがたい仕打ちも、今はどうでもよくなっていた。

しばらく手術室のドアを見つめていると、赤いランプが消えた。ゆっくりとドアが開き、緑色の手術着を着た九条結衣と数人の医師が出てくる。

男性の不安そうな視線を受け、九条結衣はマスクを外し、少し疲れたような笑みを浮かべた。

「奥様は大丈夫ですよ。赤ちゃんは早産なので、、保育器に入れます。奥様が病室に移られたら、会いに行けますからね」

「ありがとうございます!先生、本当にありがとうございます!」

男性は目に涙を浮かべ、何度も九条結衣に感謝の言葉を述べると、病室の方へ急いで向かっていった。

九条結衣は男性の後ろ姿を見つめた。4年前、A市を離れる時、藤堂瞳はまだ結婚していなかった。まさか、こんなにも早く子供を授かるなんて。

男性の反応を見る限り、藤堂瞳をとても愛しているのだろう。

九条結衣は、少し羨ましく思った。自分が九条初(くじょう はじめ)を産んだ時、傍にいてくれたのは医師と看護師だけだった。

寂しげな表情をすぐに隠すと、九条結衣はうつむき、その場を後にした。

藤堂瞳の体のことは、彼女が一番よく分かっていた。

藤堂家の令嬢である藤堂瞳は、先天性の心臓病を患っていた。藤堂家は、彼女の治療に莫大な財産と労力を費やしてきたのだ。

藤堂家に生まれたことは、彼女にとって幸運だった。もし普通の家庭に生まれていたら、妊娠出産どころか、生きていることさえ難しかったかもしれない。

徹夜明けだった上に、さっきの救命措置で体力を使い果たしてしまった。そのため、彼女は藤堂瞳の夫と話した後、もう何もかも構っていられなかった。

九条結衣は何も言わずに去って行った。藤堂澄人を見ることさえなかった。彼は、苛立ちと、かすかな寂しさを感じた。

さっき、植田涼(うえだ りょう)を見た時の、彼女の寂しげな表情を思い出し、胸が痛んだ。そして、思わず彼女の後を追っていた。

医師の休憩室の前で、藤堂澄人は一度立ち止まり、それからドアを開けた。九条結衣は額に手を当て、疲れた様子で座っていた。

物音がしたにもかかわらず、九条結衣は顔を上げなかった。少し嗄れた、疲れた声で言った。「田中さん、少し疲れてるから、患者さんが来たら他の当直の先生に頼んで」