思い上がり

わざと疑問形を使い、首をかしげながら、九条結衣は尋ねた。その言葉に、藤堂澄人は言葉を失い、視線を逸らした。

嫉妬？

この女は、自分が嫉妬していると言っているのか？

藤堂澄人は、それが聞き捨てならないほど滑稽な言葉だと思ったが、笑うことはできなかった。むしろ、何かを隠すかのように、九条結衣から目を逸らした。

顎を掴んでいた指の力が、少し弱まった。しかし、藤堂澄人は嘲笑うように言った。

「結衣、俺はお前を全く理解していなかったようだ。4年間で、他のことは何も身につかなかったくせに、思い上がりだけは一人前になったな」

彼の目は、九条結衣の嘲笑うような表情に、暗い影を落とした。

「忠告しに来ただけだ。俺は離婚届にサインしていない。お前はまだ俺の妻だ。他の男と遊ぶ前に、自分の立場をわきまえろ」

「もし、あなたが寝取られ男になりたくなければ、早くサインすればいいじゃない。4年間も考えたんでしょう？まだ迷ってるの？私のことがそんなに憎いの？」

九条結衣は、少しも怯むことなく、鼻で笑った。

藤堂澄人に拘束され、顎を掴まれて痛みを感じながらも、九条結衣は平然と振る舞った。

彼女の言葉に、藤堂澄人は瞳孔を縮めた。九条結衣を睨みつける。

かつての九条結衣の、不安げな表情、憧憬に満ちた瞳、媚び諂うような態度は、もうどこにもなかった。ただ、冷たい無関心だけがそこにあった。

彼女は…本当に自分を諦めたのか？

その事実に、藤堂澄人は胸が締め付けられるような痛みを感じた。

彼女の気持ちが、こんなに早く変わってしまうなんて、信じられない。九条結衣の失望が、少しずつ積み重なってきたことに、彼は気づいていなかった。

そして、木村靖子の存在が、最後の引き金になったのだ。

「結衣、お前には、駆け引きなんて似合わない」

彼はそう言って、自分を納得させようとした。

駆け引き？

九条結衣は眉を上げた。藤堂澄人の言葉は、彼女にとって滑稽にしか聞こえなかった。

「藤堂社長、4年間で、あなたも随分と自信過剰になったのね」