九条結衣が立っていたのは、ちょうどナースステーションの前だった。看護師たちは、藤堂澄人を見て、小声で噂話を始めた。
藤堂グループの社長は、一目見ただけで誰だか分かったようだ。
「ねえ、見て!あの人、藤堂澄人じゃない?」
「本当だ!テレビで見るよりずっとかっこいい!まさか、ここで会えるなんて。九条先生に会いに来たのかしら?」
「そういえば、4年前にも九条先生に会いに来てたわよね。もしかして、あの頃から知り合いだったのかしら?」
「知ってる、知ってる。10日前に藤堂瞳さんが救急搬送された時、担当医が九条先生だったのよ」
「いいなぁ、九条先生。藤堂さんと、あんなに親しげに話せるなんて」
「何言ってるのよ。九条先生と渡辺先生は付き合ってるんだから、九条先生が他の男を好きになるわけないじゃない」