本気になったら負け

九条結衣は目を伏せ、冷たい表情を消し、悲しそうにため息をついた。

「澄人、諦めて。私が間違っていたの。これからは、私たち、赤の他人として生きましょう」

懇願するような彼女の視線は、冷たく突き放す言葉よりも、藤堂澄人の心を深く傷つけた。

彼女は…自分から別れを切り出しているのだ。

そう悟った瞬間、藤堂澄人の胸に、あの慣れ親しんだ、それでいて、どうしようもなく戸惑いを覚える鈍い痛みが、再び洪水のように押し寄せた。あまりの痛みに、彼は身動き一つできなかった。まるで、少しでも動けば、心臓が引き裂かれてしまいそうだった。

まるで、出会ったことのない他人同士のように?

そんなことはできない。憎しみ続ける方が、彼女を忘れるよりずっと楽だ。

「恋は、本気になった方が負け、っていうじゃない。澄人、私は本気であなたを愛した。そして、惨めに敗北した。だから、今度こそ、諦めるわ。駆け引きなんかじゃない。本当に、あなたと離婚したいの」