九条結衣は、誰もが羨むような境遇に生まれた。一方、自分は九条家にさえ認めてもらえない隠し子だ。まるで、地面を這う蟻のように、惨めな存在だった。
生まれながらの劣等感が、九条結衣を前にすると、本能的に、恐怖心を抱かせるのだ。
九条結衣を恐れると同時に、嫉妬もしていた。同じ九条政の娘なのに、なぜ彼女だけが幸せな人生を送れるのか。
九条結衣は木村靖子を一瞥しただけで、無視して食堂へ向かって歩き出した。まるで、初めて会った他人のように。
木村靖子は複雑な気持ちだった。九条結衣を恐れているのに、こうして無視されるのは、やはり、我慢ならなかった。
彼女の体には、九条結衣と同じ血が流れている。母は、世間的に認められない愛人だったとしても、彼女も九条結衣も、同じ九条政の娘なのだ。