ふと顔を上げると、九条結衣の少し後ろに、見覚えのある人影が見えた。その人影は、こちらに向かって歩いてきている。
冷たいオーラを放つその男に、周りの視線は釘付けになっていた。
木村靖子は微笑み、上目遣いで九条結衣を見た。
「お姉さん、もし藤堂社長のことで怒っているのなら、誤解よ」
九条結衣の言葉に、藤堂澄人は朝から気分が悪かった。
藤堂瞳の入院に、付き添いが必要なわけではない。それなのに、彼は病院に残り続けていた。
自分の気持ちが整理できない。ただ、九条結衣と離婚するわけにはいかない、そう思っていた。彼女と話をするために、オフィスへ向かおうとしたその時、木村靖子の声が聞こえた。
自分の名前が出てきたのを聞いて、思わずその方向に目を向けた。