隠し子への仕打ち

九条結衣は、全く容赦なくこう言い放った。そして、最後の言葉で、九条政と木村靖子に、この愛人の娘を絶対に認めないことをはっきりと告げた。

木村靖子の顔色が少し青ざめ、瞳には涙が浮かんだ。

俯いて唇を噛みながら、もう口を開く勇気もなかった。誰かが自分の代わりに話してくれることを知っていたから、大人しく座っているだけでよかったのだ。

「結衣、言ったはずだ。靖子は俺の娘で、九条家の者であり、お前の妹だ。お前が認めたくないと言っても無駄だ」

九条結衣は冷笑しながら眉を上げ、木村靖子を嘲笑うような視線を向けた。

木村靖子の名前は聞いたことがあったが、彼女が藤堂澄人の恋人だということを知っている程度で、特に敵意を抱いていなかった。しかし、今は違う。

自分の家庭を壊し、母を悲しませた人間には、情けをかけるつもりはない。

九条政にも、木村靖子にも、その資格はない。

「九条家の者?木村さん、でしょ?九条社長、私に隠し子を認めさせようとする前に、おじい様に頼んで、九条家の戸籍に入れてもらったらどう?私が認めても意味がないわ。おじい様が認めなければならないわ」

「結衣、いい加減にしろ!俺はお前の父親だぞ!こんな口の利き方をするな!」

九条結衣の言葉が真実だと分かっていながら、九条政は彼女の言葉に激怒した。

靖子は、彼が最も可愛がっている娘だ。結衣のように反抗的ではなく、いつも素直で良い子だった。

正式な娘として認められていなくても、文句ひとつ言わず、彼を慰めることさえあった。

ただ、彼女に正当な地位を与えてやりたいだけなのに、何が悪い?なぜ、お祖父様を持ち出す必要がある?

お祖父様が絶対に許さないから、まずは九条結衣から説得しようとしたのに、この娘は少しの情も見せない。

「私の父親だということを覚えているなら、父親らしいことをしなさい。こんなところで恥を晒して、愛人の娘を連れて歩くなんて。あなたが笑い者になりたいのは勝手だけど、私まで巻き込まないで」

「結衣、お前…」

九条政は、結衣の言葉に顔が真っ赤になり、何も言えず、ただ震える指で彼女を指差すだけだった。

ずっと黙って耐えていた木村靖子は、頃合いを見計らって立ち上がり、怒りで震える九条政を椅子に座らせ、優しく声をかけた。

「お父さん、もういいの。怒らないで。お姉さんが私を認めてくれなくても仕方ないわ。私のせいで、親子関係が悪くなるのは嫌なの」

「靖子…」

木村靖子の健気な姿に、九条政は胸を痛めた。

「安心して。私と九条社長の間には、もともと父娘の情なんてないから、壊れるも何もないわ」

九条結衣の嘲るような声が、二人の芝居を遮った。氷のように冷たい視線に、木村靖子は思わず身震いした。

藤堂澄人は、たまたま九条結衣と来てしまったが、こんな父娘喧嘩に遭遇するとは思わなかった。

九条政が外に女と隠し子がいるという噂は聞いていたが、その隠し子が木村靖子だとは知らなかった。

冷たい目で、人を寄せ付けない雰囲気を漂わせる九条結衣を見て、彼はふと笑みを浮かべた。これこそが、彼女の本来の姿なのだろうか。