045.当事者は気付かない

植田涼は彼女をどうすることもできず、仕方なく首を振るしかなかった。

藤堂澄人は病室にそれほど長くは留まらず、電話を受けるために外に出た。彼が出て行くや否や、木村靖子が来た。

彼女は意図的に藤堂澄人を避けて来たのだ。先ほど藤堂澄人が階下で彼女に言った言葉で、感情が少し乱れていたからだ。

藤堂澄人は単純な人物ではない。彼女は自分の感情をうまくコントロールできず、藤堂澄人に見抜かれてしまうことを恐れていた。

「瞳」

「靖子」

木村靖子の声を聞いて、藤堂瞳はようやく布団から顔を出し、熱心に彼女を座るよう招いた。

「植田先生」

木村靖子は礼儀正しく植田涼に挨拶をした。

植田涼はただ軽く頷いただけで、藤堂瞳のように熱心な態度は見せなかった。この木村靖子に対して、彼はあまり良い印象を持っていなかった。