「藤堂社長」
「橋本院長」
藤堂澄人はベッドの横から立ち上がり、橋本院長の前まで歩いて行き、軽く頷いて挨拶とした。
「藤堂社長、藤堂さんの状態については、結衣から聞いていると思いますが、もう一度お話しさせていただきます」
橋本院長は真剣な表情で話し始めた。藤堂瞳は九条結衣の名前を聞いて、顔に自然と嫌悪感が浮かんだが、自分の病状に関わることなので、当然聞かなければならなかった。
「藤堂さんの状態は深刻で、もうこれ以上先延ばしにはできません。早急に心臓移植手術を行うことをお勧めします」
実際、藤堂家の財力と影響力があれば、藤堂瞳の移植手術はとっくに行えたはずだった。
しかし、藤堂瞳は臆病で、手術台で死んでしまうのではないかと思い込み、どうしても承諾しなかった。
今回は妊娠も重なり、心臓への負担がさらに大きくなって、心不全の状態まで進行している。これ以上先延ばしにはできない状況だった。