彼は美人を見たことがないわけではなく、九条結衣より美しい女性も大勢いたが、結衣の美しさには、他の女性にはなかなか見られない聡明さと有能さが加わっていた。
人を簡単には褒めない渡辺竹流でさえ、彼女を惜しみなく褒めるのも無理はない。
藤堂澄人はますます不機嫌になった。まるで自分がずっと大切に隠していた宝物が、突然世間の人々にその美しさを覗き見られたかのようだった。
「藤堂社長、これは……」
藤堂澄人の言葉に、渡辺夫妻は明らかに戸惑い、渡辺拓馬さえもこの展開を全く予想していなかった。
「藤堂社長、結衣が……」
九条結衣は渡辺拓馬を助けようとした善意が、こんなにも早くばれてしまうとは思わなかった。しかも、ばらしたのが公の場で彼女の立場を認めたがらない夫だったとは。
渡辺夫妻の信じられない表情を前に、結衣の顔には申し訳なさが浮かんだ。