二宮蘭は彼女に熱心に頷いた。二宮蘭と比べて、渡辺拓馬の父親である渡辺竹流は落ち着いた様子を見せていたが、その目は静かに九条結衣を観察していた。
落ち着いていて、礼儀正しく、仕事も立派で、確かに拓馬とよく似合う。一般的な女の子のような小市民的な感じもなく、渡辺家の嫁として相応しい。
渡辺拓馬は両親の表情から、彼らが満足していることを読み取ることができた。
彼の目は間違っていなかった。結衣はどこに行っても人々に好かれる。
渡辺拓馬が九条結衣を見る目には、いつの間にか愛情と慈しみが滲み出ていたが、九条結衣はそれに気付いていなかった。
その時、もう一人の男が我慢できなくなり、ワイングラスを持って、青ざめた顔で彼女の方へ真っ直ぐに歩いてきた。
九条結衣の笑顔を見れば見るほど、彼は目障りに感じ、心の底に一晩中溜まっていた怒りが、今にも爆発しそうだった。
渡辺拓馬が九条結衣を見る目は、あまりにも熱い。彼も男だから、そのような眼差しが何を意味するのか分からないはずがない。
そしてその認識は、藤堂澄人の心をより一層苛立たせた。
「珩一郎、この彼女は今までの誰よりもしっかりしているな。しっかり掴んでおけよ、逃げられないようにな」
渡辺竹流は非常に厳格な人物で、めったに人を褒めることはなかった。渡辺拓馬も、父親がたった一度会っただけの女性をこれほど褒めるのを初めて見た。
渡辺拓馬の心には、思わず誇らしさが込み上げてきた。まるでこの時の九条結衣が、本当に彼の彼女であるかのように。
「私の妻が、いつから他人の彼女になったのか、知らなかったな」
藤堂澄人の低い声は、まるで怒りを必死に抑えているかのようで、声を出した途端、九条結衣は圧倒的な低気圧を感じ、それが彼女に向かって押し寄せてきた。
藤堂澄人はずっと知っていた。九条結衣は年長者に好かれる才能を持つ女性だということを。あの時、彼の祖母も九条結衣に喜ばせられていたではないか。
そして今、渡辺夫妻が彼女を見る目から、藤堂澄人は理解した。自分の権利を主張しなければ、自分の妻は本当に他人の腕の中に行ってしまうかもしれないと。
このパーティーで、藤堂澄人を知らない人はいなかった。
多くの人は、このパーティーで藤堂澄人に会えることを期待して来ていたのだ。
そのため、ほとんどの人の視線は藤堂澄人に集中していた。