渡辺拓馬が彼女がよく知っている不真面目な笑みを浮かべ、無邪気に肩をすくめながら、「仕方ないよ。両親がここにいるから、ここに連れてくるしかなかったんだ」
「別の時間にできなかったの?」
九条結衣は彼に白眼を向けた。
「それは彼らに聞いてみないとね」
渡辺拓馬は遠くから近づいてくる男女を指さしながら、真っ白な歯を見せて笑った。
九条結衣が渡辺拓馬の腕を取って宴会場に入った時、藤堂澄人はすぐ近くにいて、グラスを手に持ち、全身からイライラした雰囲気を漂わせていた。
九条結衣と渡辺拓馬の登場は、会場に大きな騒ぎを引き起こした。
渡辺家の次男坊様である渡辺拓馬は医者になり、このような場には滅多に姿を見せなかった。
彼を知る人は少なかったが、その輝きは隠しようがなかった。
不真面目な笑顔が、その妖艶な目元でさらに大きくなり、会場の多くの女性たちを魅了し、皆が彼の素性を推測し始めた。