048.渡辺様の彼女

緊張のあまり、指先が掌に食い込み、爪は血の気を失っていた。

藤堂澄人はようやく反応を示したが、上げた瞳には冷たい光が宿っていた。

「お兄さん、聞いているの?パートナーは決まった?」

木村靖子の視線も、藤堂瞳の言葉とともに、緊張して藤堂澄人の顔に釘付けになった。

「今から探しに行く」

木村靖子と藤堂瞳が驚いた目で見つめる中、藤堂澄人は背を向けて立ち去り、藤堂瞳の言葉を完全に無視した。

「お兄さん、戻って!ここに一人いるじゃない!何を探しに行くの...」

この時、最も居心地が悪く、最も困惑していたのは木村靖子だった。

あれこれ計算してみても、結局、藤堂澄人は目の前にいる彼女すら見向きもしなかった。

今から誰を探しに行くの?九条結衣?

木村靖子は心の中で恨めしく思いながら、不甲斐なさと嫉妬の炎が再び心の中に広がっていった。

藤堂澄人は病室を出ると、携帯を取り出して九条結衣に電話をかけ始めたが、電話が鳴り始めるとすぐに相手に切られてしまった。

「この忌々しい女!」

両親に会うのが急ぎすぎて、彼の電話さえ受けたくないというわけか!

藤堂澄人は苛立たしげに眉をひそめた。これまで一度も、こんなにも九条結衣に電話に出てほしいと思ったことはなかった。

プライドが高い自尊心は自分に告げていた。九条結衣は彼の心の中で、まだ彼女でなければならないほど重要な存在ではないと。

その時、九条結衣は渡辺拓馬と共に帝国ホテルに到着していた。入り口での盛大な出迎えの様子に、九条結衣は思わず眉をひそめた。

「渡辺様、こちらへどうぞ」

二人がホテルの玄関を入るやいなや、従業員が近寄ってきて、彼らを隣の部屋へと案内した。

「何をするの?」

「両親に会うんだから、きちんと身なりを整えて良い印象を残さないとね」

渡辺拓馬は適当な理由を口にし、続いて横に立っているメイクアップアーティストに向かって言った。「僕の大切な人を綺麗に仕上げてください」

「かしこまりました、渡辺様」

メイクアップアーティストは何かを悟ったような表情で九条結衣を一瞥し、頷いて承諾した。

メイクが終わり、九条結衣は鏡の中の自分を見て呆然とした。

このような経験がないわけではなかった。九条家の出身である以上、このような格式高い場面には慣れているはずだった。