緊張のあまり、指先が掌に食い込み、爪は血の気を失っていた。
藤堂澄人はようやく反応を示したが、上げた瞳には冷たい光が宿っていた。
「お兄さん、聞いているの?パートナーは決まった?」
木村靖子の視線も、藤堂瞳の言葉とともに、緊張して藤堂澄人の顔に釘付けになった。
「今から探しに行く」
木村靖子と藤堂瞳が驚いた目で見つめる中、藤堂澄人は背を向けて立ち去り、藤堂瞳の言葉を完全に無視した。
「お兄さん、戻って!ここに一人いるじゃない!何を探しに行くの...」
この時、最も居心地が悪く、最も困惑していたのは木村靖子だった。
あれこれ計算してみても、結局、藤堂澄人は目の前にいる彼女すら見向きもしなかった。
今から誰を探しに行くの?九条結衣?
木村靖子は心の中で恨めしく思いながら、不甲斐なさと嫉妬の炎が再び心の中に広がっていった。
藤堂澄人は病室を出ると、携帯を取り出して九条結衣に電話をかけ始めたが、電話が鳴り始めるとすぐに相手に切られてしまった。
「この忌々しい女!」
両親に会うのが急ぎすぎて、彼の電話さえ受けたくないというわけか!
藤堂澄人は苛立たしげに眉をひそめた。これまで一度も、こんなにも九条結衣に電話に出てほしいと思ったことはなかった。
プライドが高い自尊心は自分に告げていた。九条結衣は彼の心の中で、まだ彼女でなければならないほど重要な存在ではないと。
その時、九条結衣は渡辺拓馬と共に帝国ホテルに到着していた。入り口での盛大な出迎えの様子に、九条結衣は思わず眉をひそめた。
「渡辺様、こちらへどうぞ」
二人がホテルの玄関を入るやいなや、従業員が近寄ってきて、彼らを隣の部屋へと案内した。
「何をするの?」
「両親に会うんだから、きちんと身なりを整えて良い印象を残さないとね」
渡辺拓馬は適当な理由を口にし、続いて横に立っているメイクアップアーティストに向かって言った。「僕の大切な人を綺麗に仕上げてください」
「かしこまりました、渡辺様」
メイクアップアーティストは何かを悟ったような表情で九条結衣を一瞥し、頷いて承諾した。
メイクが終わり、九条結衣は鏡の中の自分を見て呆然とした。
このような経験がないわけではなかった。九条家の出身である以上、このような格式高い場面には慣れているはずだった。