瞳の奥に潜んでいた感動も、この瞬間に引っ込んでしまった。
藤堂澄人を見上げると、彼女は冷笑いを浮かべ、強く手を藤堂澄人の手のひらから引き離した。
目の底には、嫌悪の色が満ちていた。
「昔の恋人が来たわね、挨拶でもしに行かないの?」
藤堂澄人の眉は、彼女のその言葉に顰められた。
この生意気な口を縫い付けてやりたい!
「今から彼女を懲らしめに行くわ。応援しに来る?」
彼女の唇の端には、嘲笑いが浮かんでいた。木村靖子と藤堂澄人の関係のせいで、今では藤堂澄人を見るたびに嫌悪感と不快感を覚えるようになっていた。
言葉が終わるや否や、彼女は九条政たちの方へ歩み寄っていった。
この時、九条政は九条結衣の存在に気付いておらず、ただ木村靖子を連れて皆に挨拶をしていた。
「九条社長、お隣の美しい若い女性は誰ですか?ご紹介いただけませんか?」
ついに、グラスを手にした誰かが口を開き、九条政の隣にいる木村靖子に興味を示した。
木村靖子は九条政の傍らで大人しく立ち、上品な微笑みを浮かべ、今夜のこの上流社会のパーティーに相応しい優雅さと気品を保とうと努めていた。
病院で藤堂澄人と九条結衣に侮辱されたあと、彼女は九条政の前で涙を流して訴え、悲しそうに辛そうに話をして、ようやく九条政にパーティーへの同伴を許してもらえた。
九条政の交友関係は、すべて上流社会の人々だ。九条政が今夜のパーティーに彼女を連れてくることを承諾し、彼女の身分を公にすれば、九条家も彼女を受け入れざるを得なくなるはずだった。
この質問は、まさに九条政の思惑通りだった。彼は木村靖子の腕に添えられた手を軽く叩き、紹介した。「こちらは私の娘の靖子です。」
そして、木村靖子に向かって言った。「靖子、こちらは山本叔父さんだ。」
「山本叔父さん、こんばんは。」
「ああ、九条さんだったのですね。あなたは本当にお高いところにいらっしゃる。家族の集まりがこれほど多いのに、今まで一度もお目にかかったことがないとは。」
目の前の山本グループの舵取り役である山本晶は明らかに木村靖子の身分を誤解していて、そう口にした。
木村靖子の表情が一瞬こわばり、九条政の方を見て困惑した様子を見せた。
九条政も一瞬固まり、笑顔が引きつったまま、同じように困惑していた。