067.本当に可能性はないの

渡辺拓馬は軽く笑い声を漏らした。おそらく結衣自身も気づいていなかっただろう。「私と彼の間には何も始まっていなかった」と言った時の彼女の目に宿る悲しみがどれほど強いものだったのかを。

九条結衣がカフェのドアを開けると、遠くから藤堂お婆様が目立たない角の席で手を振っているのが見えた。

「お婆様」

近づいて、結衣は小さな声で呼びかけ、藤堂お婆様の向かいの席に座った。

藤堂お婆様は八十歳近くで、髪は白くなり、黒縁の老眼鏡をかけ、白いカジュアルなレディーススーツを着ていた。全体的に元気そうで、知的な魅力に溢れていた。

四年以上会っていなかったが、結衣が再会した時、その親しみは四年の時を経ても薄れていなかった。お婆様も同様だった。

お婆様は目を細めて結衣を見つめ、とても嬉しそうだった。