「結衣……」
「お婆様……」
九条結衣は藤堂お婆様の言葉を遮り、唇を軽く噛んで、淡々と微笑んで言った。「お婆様、藤堂澄人のいない日々が、どれほど気楽で自由だったかご存知ですか?」
藤堂お婆様は結衣のこの質問に一瞬戸惑い、すぐには答えられなかった。
結衣が突然自嘲的に笑い出すのを見て、その美しい顔には悲しみの色が浮かんでいた。「澄人と結婚してから、私が九条家のお嬢様だということすら忘れかけていました。」
藤堂お婆様は結衣を見つめた。四年の月日が流れ、結衣の澄人への怒りは収まったと思っていたが、今回の帰国で離婚への決意がより一層固まっていることに気付いた。
「結婚した三年間、私たちの会話は……いいえ、彼が私に話しかけた言葉は、指で数えられるほどでした。確かに、私は彼を愛していました。だから、彼が私との結婚を承諾したと知った時、夢の中でも笑顔でした。」
「愛する人と結婚して、子供を産んで育てて、一緒に白髪になるまで生きていく夢を見ていました。」
藤堂お婆様の慈愛に満ちた眼差しを見つめながら、苦々しく言った。「お婆様、私だって才能ある女性なのに、彼の前では全ての輝きを隠して、彼の影で生きることを甘んじて受け入れていました。」
「彼が私を少しも好きではなく、むしろ嫌っているということは分かっていました。でもいつか彼の心を動かして、私のことも好きになってもらえると思っていました。だから、あの三年間、私は彼の前で愛想を振りまき、彼の好きなものを好き、嫌いなものを嫌うようにしていました。」
「藤堂瞳のことだって、心の中でどれほど不満があっても、彼女が彼の最も大切な人だと分かっていたから、自分に言い聞かせました。澄人の大切な人は、私も必死になって大切にしなければならないと。」
元々、これらの言葉は、お婆様に澄人との和解を諦めてもらうためだけのものだったが、一度口に出すと、堰を切ったように、次第に制御できなくなっていった。
特に今夜、あのような場面で澄人が木村靖子をかばう様子を再び目にしたことで。
「お婆様、私に手放す以外に何ができるというのでしょうか?」
彼女の目には茫然とした色が浮かび、お婆様に問いかけると同時に、自分自身にも問いかけていた。手放す以外に、何ができるのだろうか?
「結衣……」