「お婆様?」
九条結衣は一瞬固まった。四年ぶりにこの声を聞いて、結衣の心は少し揺れた。
藤堂家で彼女に優しくしてくれる人がいるとすれば、それは藤堂お婆様だった。彼女が藤堂澄人と結婚できた最大の理由も、藤堂お婆様の助けがあったからだ。
「結衣、お婆様は澄人から帰国して暫く経つと聞いたけど、どうして家に帰ってこないの?」
藤堂お婆様の慈愛に満ちた声が電話の向こうから続けて聞こえてきた。「家に帰る」という言葉に、結衣は思わず眉をひそめ、心の底から本能的にその言葉に嫌悪感を覚えた。
「お婆様……」
彼女は口を開いたが、言いよどんだ後で、「申し訳ありません、お婆様。私と藤堂澄人は離婚する準備をしています」と言った。
電話の向こうで一瞬の沈黙があった後、「結衣、お婆様は分かっているわ。あなたが澄人を恨んでいることも。それも彼の自業自得よ。お婆様は彼の擁護なんてしないわ。あなたは良い子で、お婆様はずっとあなたが好きだったの。家に帰りたくないなら、お婆様とコーヒーでも飲みに来ない?」