彼は心の中で爆発しそうな怒りを必死に抑えながら、なるべく気にしていないように聞こえるよう努めたが、歯を食いしばる様子が、その感情を露わにしてしまっていた。
「そうよ、結衣が私に言ったわ。もう4年も引き延ばしてきたから、これ以上待てないって」
彼女はカバンから印刷された書類を取り出して藤堂澄人の前に差し出し、言った。「これは結衣の代わりに私が用意した新しい離婚協議書よ。条項は明確に記載されているから、藤堂社長、ご確認いただいて、問題なければサインを…」
女性の言葉が終わらないうちに、藤堂澄人はその協議書を手に取り、横のシュレッダーに放り込んだ。瞬く間に紙切れとなった。
「藤堂澄人!何のつもりよ!」
女性の表情が一変し、その妖艶な顔に怒りの色が浮かんだ。
「よくも私と九条結衣の離婚訴訟を引き受ける度胸があったな!」
目の中の冷たさがさらに増し、彼は目の前の女性を見つめながら言った。「今すぐここから出て行け。私と結衣の間のことに、部外者が口を出す権利はない」
バン!
女性は手にしていたカバンを机の上に叩きつけ、それまでの知的な雰囲気は一転して荒々しいものとなった。
「藤堂澄人、よくもそんなことが言えるわね。結婚してた3年間、あなたが結衣をどう扱ったか、頭がおかしくなってなければはっきり覚えているはずよ。あんな取るに足らない女のために結衣を藤堂家から追い出しておいて、今度は離婚を引き延ばすなんて何のつもり?深い愛を装ってるの?あなた…」
「警備員を呼んでくれ」
藤堂澄人は冷たい表情で内線を押した。
「ちょっと!藤堂澄人、あんまりやりすぎないでよ。結衣を愛してないくせに、なぜこうして引き延ばすの?この人でなし…」
すぐに警備員が到着し、美しくも荒々しい女性を社長室から引きずり出した。
「お嬢さん、これ以上抵抗されるなら、強制的に対応させていただきます」
女性は何か言いかけたが、威圧的な警備員たちを見て、ようやく爪を引っ込め、警備員たちを睨みつけながら顎を上げた。「出て行けばいいでしょ。藤堂澄人の手先どもめ、ふん!」
そう言い放つと、鋭いヒールの音を意図的に響かせながら歩き去り、そのとげとげしい余韻は、エレベーターのドアが閉まるまで続いた。
松本裕司は長いため息をつき、オフィスに戻ろうとした瞬間、誰かにぶつかった。「田中社長?」