松本裕司が自分のオフィスを出たとき、秘書に呼び止められた。「松本秘書。」
「はい?何でしょうか?」
秘書は困ったような表情を浮かべ、「1階に弁護士の方がいらっしゃって、社長にお会いしたいとのことです。」
「弁護士?」
松本裕司は眉を上げた。「どんな弁護士だ?」
「奥様の離婚訴訟を担当している弁護士だと仰っています。」
秘書は苦い顔をして受付からの伝言を伝えた。松本裕司もその言葉を聞いて驚いた。「な...なんだって?奥様の弁護士が社長と離婚の話をしに?」
「はい。」
秘書は覚悟を決めて頷いた。心の中で噂の奥様に五体投地の敬意を表した。プラチナ独身貴族のような社長と、よく離婚する決心がついたものだと。
「松本秘書、この件は...社長にお伝えいただけませんか。」
秘書は懇願するような目で松本裕司を見つめた。「お願いします。」
この自殺行為のような役回りは松本裕司も避けたかったが、女性に優しい秘書である以上仕方がなかった。
秘書の懇願する目を前に、彼は覚悟を決めて承諾した。「わかった、社長に伝えてみよう。」
「ありがとうございます、松本秘書。」
秘書は大きくため息をつき、自分の席に戻って座った。松本裕司は覚悟を決めて社長室へと向かった。
コツコツコツ——
近くからハイヒールの音が聞こえてきた。その音は、持ち主同様、思わず眉をひそめたくなるほど傲慢だった。
松本裕司は足を止めて目を上げた。背の高い女性が書類カバンを手に持ち、オフホワイトのスーツが彼女の背の高い曲線美のある体つきを包んでいた。
白い肌に真っ赤な唇、きりっとした短髪が几帳面に後ろに撫でつけられ、非常にビジネスライクな印象だった。
鋭い眼差しは無視できないほどの傲慢さを帯び、その場にいる全員を一瞥した後、真っ直ぐに社長室へと向かった。
松本裕司は彼女のオーラに圧倒され、彼女が近づいてきてようやく我に返り、手を上げて彼女の行く手を遮った。「お嬢さん、予約なしで社長にお会いすることはできません。」
女性はゆっくりと彼の顔を見上げ、松本裕司の遮る腕を一瞥すると、赤い唇がゆっくりと上がった。「坊や、私は今、あなたの奥様の代理人よ。藤堂澄人に重要な用件があるの。姉さんとごちゃごちゃ言わないで、どいてちょうだい。」
そう言うと、松本裕司を横に押しのけ、そのまま中に入っていった。