藤堂澄人は男の表情に気づかず、社長椅子から立ち上がり、机を軽く叩いて言った。「九条結衣は一生、俺の女房になるしかない。法務顧問として、お前の出番だ」
男は黙ったまま、しばらく声を出さなかった。手の中の名刺は無意識のうちにしわくちゃになっており、いつもの冷たい目の奥には、何かを必死に抑えているような様子が見えた。
「どうしたんだ?」
藤堂澄人はようやく彼の様子がおかしいことに気づき、尋ねた。
「ああ、何でもない」
男は我に返り、さりげなく名刺をポケットに入れ、藤堂澄人に言った。「この件は私に任せてください」
藤堂澄人のオフィスを出ると、男の瞳が急に暗くなり、体の横に垂らしていた手が、無意識のうちに握りしめられた。
夏川雫、本当に彼女だったのか……
第一総合病院――
「結衣」