「時代は変わり、人も変わる。好みが変わるのは当然のことです。藤堂社長は忙しい方なのに、私の食事の好みなんてどうでもいいことではないですか?」
九条結衣は少し苛立たしげに眉をひそめ、その後何気なく笑みを浮かべた。確かにこの問題は些細なことだったが、結衣がそんな軽い口調で言い放つと、藤堂澄人は何故か不快感を覚えた。
特別な理由がないのに、どうして突然好みが変わるはずがあるのか?
悪魔に取り憑かれたかのように、彼はこの問題に執着せずにはいられなかった。「なぜ突然好みが変わったんだ?」
元々低かった声は、今や威圧的な響きを帯びていた。まるで結衣が答えなければ、決して諦めないとでも言うかのように。
これまで彼女に一瞥すら与えようとしなかった藤堂澄人が、なぜ彼女の好みの変化にこだわるのか理解できなかった。
伏せていた瞼をゆっくりと持ち上げ、藤堂澄人を見つめた。彼が自分を凝視し続けているのが見えた。その冷たい双眸には、威圧的な気配が漂っていた。
九条結衣の心の中に、理由もなく怒りが湧き上がってきた。箸を置き、両手を重ねて目の前のテーブルに置くと、藤堂澄人を見つめ返し、目には嘲りの色が浮かんでいた。
「藤堂社長にこう言いましょうか。食べ物の好みは男性を見る目と同じです。私が昔、藤堂社長を好きだったのは、辛い物が好きだったのと同じ。四年の間に、私の男性を見る目は変わりました。だったら食事の好みが変わるのも、そんなに不思議なことですか?」
彼女の話し方は、極めて淡々としていた。まるで純粋に傍観者の立場から藤堂澄人に事実を述べているかのようだった。そしてその事実とは——
もう彼を愛していないということだった。
藤堂澄人は九条結衣の瞳を見つめた。その目は美しく、瞳孔は漆黒で澄んでいたが、彼を見る時、その目には何の感情も宿っていなかった。かつてその瞳の奥に漂っていた憧れと愛情は、もう二度と見ることはできなかった。
かつては演技だと思っていた深い愛情と慕情を、今は何としてでももう一度見たいと願っているのに、それはもう存在しなかった。
不意に、藤堂澄人の胸が締め付けられるような感覚に襲われた。あの馴染みの鈍痛が、今度は尖った刃物となって彼の心を刺し貫いた。これまでのどの時よりも激しく。