070.彼女は私を捨てた

彼女の目は、氷雪の大地に張る薄氷のように冷たく、その言葉は藤堂澄人の心を鋭く刺し貫いた。

彼は、彼女が怒って大声で叫ぶ方がまだましだと思った。このような冷淡な態度で接されるのは耐えられなかった。

その瞬間、もし本当に彼女の怒りを買ってしまったら、九条結衣との関係は取り返しのつかないところまで行ってしまうと感じた。

そう思うと、手の力が思わず緩んだ。結衣はその隙に彼の手から逃れ、振り返ることもなく道端へと向かった。ちょうど通りかかったタクシーを手で止め、未練げな様子も見せずに乗り込んだ。

藤堂澄人は結衣を乗せたタクシーが遠ざかっていくのを見つめながら、胸に見覚えのある痛みが走るのを感じた。

「どんなに強い心も、いつかは折れる時が来るものよ……」

お婆様の声が傍らで響き、彼はその言いようのない痛みから我に返った。

「お婆様……」

藤堂澄人はこの痛みの正体が何なのか理解できなかった。ただ、結衣の瞼に昔のような眼差しを見つけられなくなった時、胸の締め付けるような痛みがより一層強くなったことだけは分かっていた。

そして、お婆様のその言葉は、彼の心をさらに慌ただしくさせた。

「澄人、結衣はもうあなたを受け入れないわ。」

お婆様の言葉は、彼の心を震わせ、一瞬にして息が詰まるほどの痛みを与えた。

彼の目は戸惑いと途方に暮れた様子を見せていた。「彼女が…私を受け入れない?」

初めて孫がこのような様子を見せるのを目にして、藤堂お婆様は無力に首を振った。この愚かな孫を哀れむべきか、自業自得だと思うべきか分からなかった。

かつて目の前にあった深い愛情を、彼は粗末に扱った。今になって目に浮かぶ痛みは、一体何を物語るというのだろう。

一人の女性が、あれほどの執着を諦めるまでにどれほどの努力が必要だったことか。そして、彼女が本当に諦めてしまった今となっては、取り戻すことは難しい。

まるで孫の苦しみがまだ足りないとでも言うように、藤堂お婆様は更に尋ねた。「結衣が私と何を話したか知りたい?」

藤堂澄人が困惑した様子で彼女を見つめると、お婆様は小さなボイスレコーダーを投げ渡し、言った。「よく聞いておきなさい。これからあなたがどうするにしても、私はもう口出ししないわ。結衣を説得することも期待しないで。」

そう言うと、道端で待っているマイバッハへと歩み寄った。