「離婚届を裁判所に提出したのか?」
藤堂澄人は彼女の手首を掴み、表情を冷たくして言った。
「離婚の件は全て私の弁護士に一任しました。藤堂社長、何かご質問があれば弁護士に直接お話しください。私は退社時間なので、手を離してください」
それを聞いて、藤堂澄人は手を離すどころか、九条結衣の手首をより強く握りしめた。「そんなに急いで私と離婚したいのは、電話の男のためか?」
彼は渡辺拓馬の顔を覚えていた。まさに遊び人そのもので、あちこちで女性と関係を持つ多情な男。九条結衣がそんな男と一緒にいるなんて。
藤堂澄人が自分の息子のことを口にするたびに、九条結衣は本能的に後ろめたさを感じ、無意識に彼の視線を避けてしまう。
そんな彼女の後ろめたさが、藤堂澄人に他の男がいるから彼女に向き合う面目がないのだと思わせてしまう。