078.藤堂家の長孫

九条政の顔色が変わった。彼が口を開く前に、九条結衣がさらに言った。「気になるわ。私に文句をつけるなら、どうやって私に対抗するつもり?」

「お前...」

九条政は顔を曇らせた。彼が一番嫌いなのは、九条結衣のこの何も恐れず、誰も眼中にないような態度だった。

もし彼女が九条政の娘でなければ、九条結衣にこんな尊大な態度を取る資格などないはずだ。

この時の九条政は、自分が今日のビジネス界の名士になれた理由が何だったのかを、すっかり忘れてしまっていた。

九条結衣はこの件について九条政と時間を無駄にする気はなく、立ち去ろうとした。しかし、背後から九条政の不気味な声が聞こえてきた——

「九条初は藤堂澄人の息子だろう?」

九条結衣の足が止まった。明らかに、九条政の言葉は九条結衣に効果があった。

彼は少し得意げに眉を上げた。やはり、この生意気な娘にも弱みはあるはずだと思っていた。

彼女の弱みを握れば、従わせることなど簡単だろう。

九条結衣が振り向いて彼を見た。九条政が初を藤堂澄人の息子だと見抜いたのは不思議ではない。初はまだ3歳だが、その顔立ちは藤堂澄人とそっくりだった。

九条政どころか、見知らぬ人でさえ初を見れば、藤堂澄人との関係に気付くかもしれない。

そのため、九条結衣は九条政の前で何かを隠すつもりはなく、ただ彼が初のことを持ち出した真意が気になった。

「それがどうしたの?」

「帰ってきてからずっと、藤堂澄人に初の存在を知らせていないようだな。藤堂澄人に初を奪われるのが怖いんだろう?」

九条政の顔に得意げな表情が浮かんだ。

九条結衣は少し驚いた。九条政が良からぬことを企んでいるとは予想していたが、まさかこれを使って自分を脅すとは。

九条結衣が黙っているのを見て、九条政の得意げな様子はさらに明らかになった。「取引しようじゃないか。お前が老人を説得して靖子を九条家に入れさせれば、私は藤堂澄人に初の存在を告げないことにしよう。どうだ?」

九条結衣は九条政を見つめ、しばらくして、彼のこの厚かましい要求に思わず笑ってしまった。

九条政は彼女の様子を見て眉をひそめた。「何を笑っているんだ?」

「藤堂澄人に話したければ、どうぞご自由に。初は藤堂澄人の正当な息子よ。私に怖いものなんてないわ」