藤堂澄人は抱きかかえている九条結衣が彼の腕から降りようともがいているのを見て、眉をひそめ、同じように夏川雫を強く抱きしめている田中行を見つめながら、低い声で言った。「彼女は結衣を悪い方向に導いているのか?」
「お前の奥さんが彼女を悪い方向に導いているとは言わないのか?」
「結衣はそんな人間じゃない」
夏川雫がこのように結衣を洗脳しているのを聞いて、藤堂澄人は彼女を一発で気絶させてやりたいほどだった。夏川雫のような人間を結衣の近くに置いておくわけにはいかなかった。
「じゃあ、雫がそんな人間だっていうのか?」
田中行は身内を庇うように眉を上げ、端正な眉間に不満の色が滲んだ。
藤堂澄人は彼と言い争うのも面倒で、暴れている女性を抱えたままバーの外へ向かい、松本裕司に電話してバーの後始末を頼んだ。