112.私は振り返って平手打ちをした

「はい、はい、はい、行ってあげなさい。彼女のことをよく面倒見てあげなさい」

藤堂お婆様は嬉しさのあまり、笑みが止まらなかった。孫が何故結衣を抱えて帰ってきたのか気になったものの、これは二人が和解するための絶好の機会だと思い、賢明にも邪魔をしないことにした。

藤堂澄人は九条結衣を抱えて寝室に戻り、コートと靴を脱がせてあげた。その間、結衣はずっと深い眠りについていたが、顔は終始しかめっ面で、かなり具合が悪そうだった。

澄人は浴室に行き、お湯を入れた洗面器を持って戻ってきて、結衣の傍らに片膝をつき、顔を拭いてあげ始めた。

睡眠を邪魔された結衣は不機嫌そうに、澄人の差し出した手を払いのけ、「邪魔しないで」と小さな声で文句を言った。

その低い声には小さな不満が混ざっていて、まるで強情な野良猫のようで、澄人は思わず苦笑してしまった。

子供の頃に数回会った以外、彼と結衣は付き合って八年以上になるが、こんな結衣を見るのは初めてだった。

結婚していた三年間の従順で気遣い深い様子でもなく、四年後の再会時の攻撃的で鋭い態度でもない。酔った結衣は、まるで子供のようだった。

手のタオルが冷めてきたので、もう一度絞り直し、結衣の払いのける手を押さえながら、もう片方の手で優しく顔を拭いてあげた。その動作の優しさは目を見張るものがあった。

二日酔い防止スープを持って上がってきた山本叔母さんは、開いた扉の前で立ち止まった。普段誰の世話もしない高貴な若様が、今こうして奥様の顔を優しく拭いている様子を目にして。

あの三年間、若様が奥様をどれほど冷たくあしらっていたかを目の当たりにしていなければ、山本叔母さんは若様が本当に奥様を愛していると思ってしまうところだった。

しばらく呆然としていた後、我に返った山本叔母さんは足音を忍ばせて部屋に入り、「若様、二日酔い防止スープができました」と告げた。

「そこに置いておいて」

澄人は手を止めることなく、タオルを絞って結衣の顔を拭き続けながら、さりげなく返事をした。

山本叔母さんはスープを置くと退室し、非常に気を利かせてドアを閉めた。

「大奥様、大奥様、大変なことになっています!」

山本叔母さんは階下に降りると、急いで藤堂お婆様に上階で目にした光景を報告しに行った。

「どうしたの?若様が奥様に手を上げたの?」