112.私は振り返って平手打ちをした

「はい、はい、はい、行ってあげなさい。彼女のことをよく面倒見てあげなさい」

藤堂お婆様は嬉しさのあまり、笑みが止まらなかった。孫が何故結衣を抱えて帰ってきたのか気になったものの、これは二人が和解するための絶好の機会だと思い、賢明にも邪魔をしないことにした。

藤堂澄人は九条結衣を抱えて寝室に戻り、コートと靴を脱がせてあげた。その間、結衣はずっと深い眠りについていたが、顔は終始しかめっ面で、かなり具合が悪そうだった。

澄人は浴室に行き、お湯を入れた洗面器を持って戻ってきて、結衣の傍らに片膝をつき、顔を拭いてあげ始めた。

睡眠を邪魔された結衣は不機嫌そうに、澄人の差し出した手を払いのけ、「邪魔しないで」と小さな声で文句を言った。

その低い声には小さな不満が混ざっていて、まるで強情な野良猫のようで、澄人は思わず苦笑してしまった。