110.奥さんを連れて帰れ(5更)

「この野郎、結衣に手を出すなんて!」

彼女は近くの椅子を掴むと、数人の男たちの頭めがけて投げつけた。一瞬のうちに、バーは大混乱に陥り、状況は制御不能になっていった。

バーのマネージャーが警備員を連れて駆けつけたが、誰も前に出て止めようとはしなかった。

夏川雫は椅子で殴りながら罵声を浴びせ続け、最後には九条結衣と二人で壁際の隅に倒れ込んでしまった。

彼女たちに絡んでいた男たちも殴られてぼうっとしていたが、やがて我に返ると、夏川雫と九条結衣を掴んで平手打ちを食らわせようとした。

しかしその時、肩を強く蹴られ、不意を突かれて吹き飛ばされた。

見上げると、凛とした威厳に満ちた背の高い男が彼らの前に立っていた。何もせずに、ただじっと彼らを見つめただけで、彼らは恐れをなして黙り込んでしまった。