084.顔が痛い

看護師が中に入ってから、木村靖子は渋々藤堂澄人の方に視線を向けた。彼の表情にはあまり変化がなかったものの、彼から漂う不機嫌さが増していくのを感じ取ることができた。

「す、すみません。さっきは瞳の状態が心配で、外で騒いでしまって……」

「もういい」

藤堂澄人は苛立たしげに木村靖子の言葉を遮った。「瞳の状態は医師が対応する。お前がここで騒いでも瞳の役には立たない」

木村靖子の顔色が更に青ざめ、下唇を噛みながら、目が赤くなり、俯いたまま黙り込んだ。

彼女は空気の読める女性だった。特に藤堂澄人の前では、長年にわたって分別のある、時宜をわきまえた女性を演じてきた。しかし、彼女のすべての思惑を藤堂澄人は見抜いていた。ただ、そういったことで彼女と関わり合うのを潔しとしなかっただけだ。

時間が一分一秒と過ぎ、手術室のランプが消えた時には、すでに午後五時半になっていた。九時間にも及ぶ手術で、九条結衣が出てきた時には、両足が少し震えていた。

マスクを外したばかりで、まだ息を整える間もないうちに、植田涼が彼女の前に駆け寄ってきた。「お義姉さん……」

「大丈夫よ、手術は成功したわ。ただ……」

九条結衣の言葉が終わらないうちに、植田涼は既に後ろから運び出されてきた藤堂瞳のベッドの方へ駆け寄っており、彼女の話を最後まで聞く余裕はなかった。

九条結衣:「……」

植田涼が藤堂瞳のベッドについて病室へ向かうのを見て、九条結衣は苦笑いを浮かべた。

せめて話を最後まで聞いてほしかったのに。

彼女が植田涼を見つめている間、藤堂澄人も彼女を見つめていた。その清楚な顔には、まだ細かい汗の粒が浮かんでいた。

九時間も立ちっぱなしというのは、彼のような男性でさえ耐えられないかもしれない。それなのに彼女は手術に集中しなければならず、どれほどの精神力を使ったことか……

そう考えると、藤堂澄人の心臓が急に締め付けられるような感覚に襲われ、無意識のうちに二歩前に進んだ。

九条結衣が視線を戻した時、一人の人影が彼女の目の前に立ちはだかっていた。その体から漂う馴染みのあるボディソープの香り。たとえ何年経っても、九条結衣にはそれが分かった。

それは骨の髄まで染み付いた馴染み深さで、たとえ藤堂澄人のことを忘れようとしても、この香りだけは消せなかった。