084.顔が痛い

看護師が中に入ってから、木村靖子は渋々藤堂澄人の方に視線を向けた。彼の表情にはあまり変化がなかったものの、彼から漂う不機嫌さが増していくのを感じ取ることができた。

「す、すみません。さっきは瞳の状態が心配で、外で騒いでしまって……」

「もういい」

藤堂澄人は苛立たしげに木村靖子の言葉を遮った。「瞳の状態は医師が対応する。お前がここで騒いでも瞳の役には立たない」

木村靖子の顔色が更に青ざめ、下唇を噛みながら、目が赤くなり、俯いたまま黙り込んだ。

彼女は空気の読める女性だった。特に藤堂澄人の前では、長年にわたって分別のある、時宜をわきまえた女性を演じてきた。しかし、彼女のすべての思惑を藤堂澄人は見抜いていた。ただ、そういったことで彼女と関わり合うのを潔しとしなかっただけだ。