121.二人の男の間の潜在的な波乱

「奥様、こちらがお荷物です」

「ありがとう」

九条結衣は受け取って礼を言うと病院の建物へ向かって歩き始めた。数歩進んだところで、誰かが彼女を呼ぶ声が聞こえた。「結衣」

九条結衣が振り返ると、渡辺拓馬が不良っぽい笑みを浮かべながら近づいてきた。彼女は後ろに立っている松本裕司に目をやった。

「これから朝ご飯を食べに行くんだけど、一緒にどう?」

「私はもう食べたわ。今から当直の先生と交代するところなの。早く食べてきてね」

「そっか」

渡辺拓馬は少し落胆した様子で肩をすくめた。ちょうどそのとき藤堂澄人がやってきて、二人はばったり出くわした。

先日の晩餐会の件と、病院内での渡辺拓馬と九条結衣の関係についての噂話から、藤堂澄人は渡辺拓馬に対して非常に強い敵意を抱いていた。

渡辺拓馬を見る目は自然と深刻さを増していた。