藤堂澄人も笑い出した。「離婚できるかどうかはともかく、少なくとも今の君には九条結衣に目をつける資格はない」
渡辺拓馬の口元の笑みが、少しずつ大きくなり、その後真面目な表情に戻して言った。「藤堂澄人、よく自分が結衣の夫だと強調できるな。これまでの年月、夫としての責任を果たしたことがあるのか?結衣がどんな生活を送ってきたか、分かっているのか?」
藤堂澄人は眉をひそめた。どんなことでも堂々と主張できるのに、九条結衣のことに関しては、少しの自信もなかった。
「結衣に悪い噂がたつのは避けたい。離婚するまでは、彼女と不適切な関係にはならない。でも藤堂澄人、お前のようなDV男に結衣が心変わりすると思っているのか?そんな哀れな夫という立場で俺の前で威張るな」
そう言って、背を向けて立ち去ろうとした。
「待て!」
藤堂澄人は意図的に彼と対立しようとし、渡辺拓馬が背を向けた瞬間、厳しい声で叫んだ。
「俺がいつ結衣にDVをしたというんだ?」
あの三年間、意図的に結衣を冷遇したことは認める。だが、一度も彼女を殴ったことはない。何がDVだというのか?
結衣が外でそんなふうに言っているのか?
世間がどう見るか、どう評価するかは気にしない。だが、もし結衣がそう言っているのなら、非常に不愉快だ。
「ふん!精神的DVはDVじゃないとでも?」
渡辺拓馬は軽蔑的な目つきで彼を見て、藤堂澄人が呆然としている隙に、背を向けて大股で立ち去った。
藤堂澄人は渡辺拓馬の最後の言葉で顔を曇らせたが、彼の言うことが正しいと認めざるを得なかった。
あの三年間、結衣に対して行った精神的DVは、実際に手を上げるよりも辛かったかもしれない。
そして交代勤務を終えた九条結衣は、下階で二人が彼女のことで言い争っていることなど知る由もなく、病棟の事務室に戻り、夏川雫に電話をかけて彼女に問題がないことを確認してから、今日の病棟回診を始めた。
藤堂瞳の病室に着いた時、入室するとすぐに藤堂瞳と木村靖子が談笑しているのが目に入った。二人は何を話していたのか、とても楽しそうだった。
この時、植田涼は病室にいなかった。今は藤堂瞳と木村靖子の二人だけだった。
藤堂瞳は九条結衣を見ると、表情が暗くなり、小声で「邪魔」とつぶやき、挨拶もしなかった。